運動療法で痛み・しびれを「神経から」改善するコツ

「運動療法をした方がいいと言われて続けているけれど、思ったほど変わらない」

「ストレッチや体操をしているけれど、どれくらい・どうやれば良いのか分からない」

そんな方に向けて、

• なぜ痛み・しびれが続くのか（脳と神経・危険予測の視点）

• なぜ感覚を感じる運動療法が効きやすいのか

• 自宅でもできる具体的なやり方

をまとめました。

今回の内容は筋力アップのための「運動」ではなく、痛みやしびれを改善するための運動療法の考え方 です。

（※急な激痛・麻痺・発熱を伴う痛みなどがある場合は、まず病院での検査を優先してください）

神経学的な考えでは、痛み・しびれ等の症状は「このまま動かすと危険だ」と脳が危険予測をして出す防御反応です。

• 痛み・しびれ→ その部分をあまり使わせないためのブレーキ

• 筋肉の硬さ・歪み→ 今の身体状態で一番安全だと脳が判断した姿勢に固定する工夫

• 可動域制限→ 危険と予測した角度まで動かないようにする安全装置

症状そのものはつらいですが、脳の目的は一貫して 「危険を回避すること」 です。

※「痛みはなぜ身体を守る反応なのか？」をもう少し深く知りたい方は
『脳が安心すると痛みが減る ― 神経学トレーニングとは？』も合わせてご覧ください。

脳は、全身からの情報をまとめて入力→解釈（危険予測）→出力という流れで身体を管理しています。

入力（身体からの情報を受け取る）
・筋肉・関節・皮膚・内臓からの感覚
・目や耳からの感覚
・三半規管などのバランス情報
・不安・緊張などの心理状態 など

解釈（危険予測）
それらを総合して「今の状態は安全」「このまま動かすと危険」を判断（＝危険予測）する

出力（解釈に応じた反応を出す）
・危険と予測 → 痛み・筋緊張・しびれ・動きの制限などの防御反応を出す
・安全と判断 → 防御をゆるめ、動きやすい状態へ戻していく

手に画びょうが刺さる場面をイメージしてみてください。

1. 感覚神経から「鋭い刺激が入った」と脊髄を通じて脳が受け取る（入力）

2. 脳が「この刺激は危険だ」と危険予測する（解釈）

3. 痛みを感じさせ、腕を引っ込めるよう命令する（出力）

痛みは、単なる「壊れたサイン」ではありません。
「危険だから離れなさい」という脳の危険予測に基づく指令です。

問題は、画びょうのような外からの強い刺激が無いのに、痛みやしびれ等の症状が続く場合です。
このようなときは、関節・筋肉・等の身体の情報があいまいです。
そのため、脳が「身体の状態」を正確に把握出来ていません。

脳は「よくわからない状態」を危険として扱い、痛みやこわばりでブレーキをかけ続ける。
これが、危険予測として症状が長引く一つのパターンです。

入力→解釈→出力の流れを、神経トレーニングと合わせて詳しく知りたい方は
『脳が安心すると痛みが減る ― 神経学トレーニングとは？』で図解しています。

症状を改善するには、脳に対して「ここまでは動かしても危険ではない」という安全な情報を何度も積み重ねる必要があります。
そのために狙いたいのが、痛みは出さずに、痛みが出そうなギリギリ手前まで動かす範囲です。

この範囲で動きを繰り返すと、下記の流れで改善していきます。

1. 「ここまでは安全に動かせる」という情報が脳とに多く入力

2. 「この動きは危険な状態になる」という危険予測が弱まる

3. 動く前から先に筋肉を固めていた防御反応が減る

4. 痛み・こわばり・可動域制限等の症状改善

痛みを我慢して動かすと危険な経験や不快な感覚の情報ばかりが積み重なり危険予測が強くなります。
また、痛みも不安も出ない狭い超安全範囲だけで動かすのも、危険予測を弱めるほどの情報では無いため改善は難しいです。

なぜ我慢して動かす運動療法で悪化しやすいのかは、
『なぜ運動療法で痛みが悪化する人がいるのか？ ― 脳の危険判断と神経から考える』 で詳しく説明しています。

運動するとき、脳と小脳の間では常に「動きのチェック」が行われています。

1. 大脳が動かす筋肉へ「方向・速さ・強さ等」の指令を出す

2. その指令内容は「動きのコピー」として小脳にも送られる

3. 小脳はコピーから「こう動くはず」と予測

4. 実際の動きの感覚情報（筋肉・関節等）が戻り、予測とズレがないかを小脳がチェック

5. ズレがあれば、「こう修正しなさい」と大脳へ伝える

この循環を繰り返し、指令どおりに動けるようになります
また、ボディマップ（脳内の身体地図）も正確に修正。
その結果、危険予測が弱まり、「ここまでは安全に動かせる」と判断していきます。

重要なのは、正確な指令通りに動けているかを細かく確認しながら動くことです。

適当に大きく動かすだけでは情報が粗くなり、脳には「なんとなく動いた」程度の情報しか残りません。

今回は、肩を例にしたシンプルな流れを紹介。

※痛みが強い場合は、必ず無理を行ってください。

肩の運動療法では、まず「痛みなく動かせるギリギリ手前の範囲」を見つけ、その中で4つの動きを試していきます。

1. 立つか座るかして、背筋を軽く伸ばす。

2. 腕を前と横からゆっくり上げて、「どの角度から重さ・つっぱり・怖さが出るか」をざっくり確認する。

3. 肘を軽く伸ばしたまま、腕を前にゆっくり上げて、痛みが出るギリギリ手前の高さで止める。

4. その高さで、痛みが出ない範囲の動きとして

   上下の直線、前後の直線、きれいな円、横向きの8の字の4パターンで動かす。

5. 動きの最中に、上半身のブレ、スムーズに動くか、余計な力みが出てないか等を注意。

6. 一番効果の出る動きを中心に継続していく。

このように、ギリギリ手前で動きをくり返すことで、「ここまでは安全に動かせる」という情報が、脳に積み重なり危険予測が弱まり、防御反応が少しずつゆるんでいきます。

結果として、「安全に動かせる範囲」そのものが少しずつ広がります。

痛みが出る動きは人それぞれです。
応用編は、その痛みが出る動き・姿勢・ポジションで行っていきます。

例えば野球の投球動作で肩を後ろに引いた時に痛みが出る場合もあります。
この時は、痛みが出るところまでゆっくり動いて止まります。
そこで、先に紹介した動きをやってみましょう。

他にも背中を丸めて肩を動かした時に痛みが出るなら、背中を丸めて行う。
この様にあなたの痛み・症状に合わせて行いましょう。

アイソメトリック運動とは動かさずに力を入れる静的な筋トレ方法です。
代表的なのは、バストアップ目的の胸の前で合掌して力を入れるトレーニング。
この運動のギリギリ範囲を超えて動かし過ぎる心配が無いことです。

例として、肩が上げると痛みが出る症状の場合です。

1. 壁に向かって立ち、手のひらを壁につける。

2. 腕をゆっくり痛みが出るギリギリ手前の高さまで上げる。

3. 腕を上げるつもりで、壁を上方向へ押すように力を入れる（痛みが出ない強さで数秒）。

4. 力を抜き、少し休んでから同じ流れを数回くり返す。

力を入れる方向は上だけでなく別の方向にしても大丈夫です。
色々な方向を試して効果が高い方向がわかれば、それを継続していきましょう。

5章で行った「ギリギリ手前まで実際に動かす」方法では力の出し方が控えめになりがちです。
アイソメトリック運動なら、ギリギリ手前からさらに「動かしたい方向」へ力を入れることができます。
脳には「この角度から先の方向に力を出しても危険ではない」という安全な情報が繰り返し入力されます。

その結果、「本当は危険だと予測していたその先の方向」に対しても、危険予測が少しずつ弱まります。
すると、動く前から先に筋肉を硬くする等の防御反応も弱まります。
最終的に、安全に動かせる範囲そのものが少しずつ広がるという改善が期待できます。

①壁への向き方を変える
正面を向いたり、横向きや後ろ向きで手をつく等。

②肘の角度を変える
肘を伸ばすだけでなく、曲げたり捻ったりと様々な角度で行う。

今回は肩を例にしていますが、他部位でも同じです。
考え方がわかれば色々な応用が可能になります。

やり方ではなく考え方を理解して様々なやり方を試してください。

ここまでのポイントを、神経学の視点から整理します。

1. 痛み・しびれ・動きの制限等は、「このまま動かすと危険だ」と脳が危険予測して出す防御反応。

2. 脳は入力→ 解釈→ 出力の流れで、身体の安全を管理している。

3. 関節の位置・筋肉等の情報があいまいだと、脳は状態を正確に把握できず危険予測して、防御反応を続けやすい。

4. 量をこなすだけの運動療法は、入力情報が少なく危険予測やボディマップがほとんど書き換わらない。

5. 神経から整える運動療法では、筋肉を動かすことは手段、身体の感覚を正確に感じることが目的。
   「痛みが出るギリギリ手前」の範囲で、どこがどう動いているかを丁寧に感じながら動くことで、「ここまでは安全に動かせる」という情報を脳と積み重ねていく。

6. アイソメトリック運動は、実際には動かさなくても「この方向に力を出しても危険ではない」という情報を入力できる。

7. 安全入力が積み重なると危険予測からの防御反応が減り安全に動かせる範囲が広がっていく。

「たくさん動かすこと」よりも、どの範囲までなら安心して動かせるかを見極めてください。
そのギリギリ手前で細かく感覚を感じながら動くことが、神経から整える運動療法のポイントです。