
普段、立ったり座ったり、歩いたりするときに、どうして倒れないのだろう?
と考えたことはありますか?
実は、身体には、意識しなくても勝手にバランスをとってくれるすごい仕組みがあります。
それが「前庭脊髄反射(VSR)」というものです。
今回は「前庭脊髄反射(VSR)」がどんな働きをして、どうして姿勢を保ってくれるのか?
もし、この仕組みがうまくいかなくなるとどうなるのか?
さらに、どうすればこの仕組みを鍛えられるのかを、分かりやすく説明していきます。
1. 前庭脊髄反射の「反射」とは?

まず、前庭脊髄反射の「反射」を説明します。
反射とは、
①特定の刺激があったとき
②、頭(脳)で「どうしようかな?」と考えるよりも早く
③身体がパッと自動的に反応すること
例えば、熱いものにうっかり触ると「熱いから手を引っ込めよう」と考える前に手が引っ込みます。
また、膝のお皿の下を軽く叩かれると、足が勝手にピョンと跳ね上がる。
これらもすべて反射の例です。
こんな素早く反応できるの理由は、反射の多くの命令が脳ではなく脊髄だからです。
脊髄とは背骨の中の神経の束が通る部分です。
例えば手の刺激情報は、手→脊髄→脳の順番で伝わります。
伝わった後に脳でどのように反応するかを考えて指令を出すと時間がかかります。
そこで途中の脊髄が情報を受け取ってすぐに反応の命令を出します。
手→脊髄→脳→指令手→脊髄→指令
この素早い反応は、身体を危険から守ったり動きをスムーズにするためにとても大切な役割です。
前庭脊髄反射(VSR)も、「よし、バランスをとろう!」と意識しなくても、身体が勝手にバランスを保つシステムの一つです。
2. バランスの司令塔!「前庭」

前庭脊髄反射(VSR)を理解するには、「前庭(ぜんてい)」を知ることが大切です。
前庭は、耳の奥にあるとても小さな器官です。
音を聞く「蝸牛(かぎゅう)」というカタツムリみたいな形の場所のすぐ隣にあります。
前庭には、主に2つの部分があるのです。
- 三半規管(さんはんきかん)
頭がクルクル回る動き(首を振る、身体をひねる動き)を感知するセンサー - 耳石器(じせきき)
重力や、まっすぐな動きを感知するセンサー
耳石器は、「卵形嚢(らんけいのう)」と「球形嚢(きゅうけいのう)」という2つの小さな袋があります。
それぞれに「耳石(じせき)」と呼ばれる、たくさんの小さな石が詰まっています。
耳石は、たくさんの短い毛(感覚毛)の上にのっています。
・頭を傾ける
・エレベーターに乗って上下に動く
電車が急に発進・停止したりすると、この耳石が重力や動きの力でズレ動きます 。
すると、耳石の下にある感覚毛がその動きを感じ取り、「身体が今、どちらに傾いているか」「どちらの方向に、どれくらいの速さで動いているか」といった情報を脳に伝えてくれます。
3. 前庭脊髄反射(VSR)と姿勢

本題の前庭脊髄反射(VSR)と姿勢の関係について。
前庭脊髄反射(VSR)は、前庭がキャッチした頭の動きや身体の傾きの情報を使って、脳から脊髄(背骨の中を通っている神経の束)に命令を送り、姿勢を保つための筋肉の動きを調整する反射です。
具体的な流れは次の通り
- 前庭が情報をキャッチ
身体が傾く・頭が動くと、前庭(三半規管や耳石器)がすぐ感知します。 - 脳に伝える
キャッチした情報は、前庭神経という道を通って、脳のバランスを司る部分に伝えられます。 - 脊髄に命令
脳のバランスを司る部分から、脊髄に向かって「こう動け!」という命令が送られるのです。 - 筋肉が動く
脊髄に届いた命令は、身体のバランスを保つのに必要な筋肉(特に、重力に逆らって姿勢を維持する筋肉)に、「縮め!」とか「緩め!」とか指示を出します 。
一連の反射のおかげで意識しなくても、姿勢を正したり身体のバランスを保つ事が出来ます。
前庭脊髄反射(VSR)と「前庭脊髄路」

前庭脊髄反射(VSR)と似た言葉で「前庭脊髄路」があります。
前庭脊髄路とは、前庭からのバランスの情報を脳から脊髄、そして筋肉へと伝える「神経の通り道」や「情報が通る高速道路」のことです。
前庭脊髄路という道を通って、脳からの「バランスを保て!」という命令が筋肉に届くことで、前庭脊髄反射(VSR)の反応が起きます。
つまり、前庭脊髄反射(VSR)は「自動的にバランスを保つ働き」、前庭脊髄路はその働きを可能にする「神経の経路」です。
前庭脊髄反射(VSR) | 前庭脊髄路 | |
種類 | 反射 | 経路 |
定義 | 前庭系の情報をもとにして起こる反射 | 前庭系から脊髄への神経経路 |
役割 | 姿勢を保つための反射的な反応 | 姿勢を保つための情報伝達 |
前庭脊髄路の外側と内側
前庭脊髄路には、身体の異なる部分のバランスを保つ2つの道があります。
- 外側前庭脊髄路
この道は、主に手足や体幹(腹や背中)の筋肉に命令を伝えます。
特に、重力に逆らって姿勢を保つための筋肉(抗重力筋)の緊張を調整する役割があります。
まっすぐ立つ事が出来るのも外側前庭脊髄路のおかげです。
歩くときに、足が地面に着いた後に太ももの筋肉に力を入れて身体を支えるなど、歩行中の安定性にも関わっています 。 - 内側前庭脊髄路
この道は、主に首や上半身の筋肉に命令を伝えます。
一番大切な役割は、身体が動いても頭を安定させ、視線を水平に保つことです 。
歩きながらでも視界がブレずに見えるのは、この内側前庭脊髄路が働いているからなのですよ
このように、外側と内側の前庭脊髄路が協力し合うことで、身体全体でバランスを保ち様々な動きをスムーズに行う事が出来ます。
前庭脊髄反射(VSR)の具体例

- でこぼこ道を歩くとき
足元が不安定になっても、前庭が身体の傾きを感知して、無意識のうちに身体の重心を調整し、転びそうになるのを防ぎます。 - 電車が急に止まったとき
身体が前に倒れそうになると前庭脊髄反射(VSR)が働き、身体の後ろ側の筋肉(背中の筋肉など)をキュッと縮めて倒れないように踏ん張ります。 - 片足立ちになったとき
身体がグラグラしそうになっても、前庭からの情報をもとに必要な筋肉が自動調整され安定した姿勢を保とうとします。
このように、前庭脊髄反射(VSR)は、生活に必要な「姿勢を保つための大切な仕組み」です。
前庭脊髄反射(VSR)が正常に働いているからこそ、転ばずに色々な活動が出来ます。
4. 前庭脊髄反射(VSR)の乱れと「慢性痛」の関係
前庭脊髄反射(VSR)の働きが乱れると慢性痛となる可能性があります。
前庭脊髄反射(VSR)が乱れる理由
前庭脊髄反射(VSR)が働かなくなる原因は様々。
- 耳の奥のトラブル(前庭の病気)
内耳炎や前庭神経炎など、前庭のバランスセンサー自体に問題が起きると、脳へ情報が正確に伝わらなくなることがあります。脳に誤情報や、他の感覚(目や身体の感覚)と合わない情報が送られると「めまい」が起こることがあります。
めまいには、自分や周りがグルグル回るように感じる「回転性めまい」、フワフワしたりグラグラしたりする「非回転性めまい」があります。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)のように、耳石が三半規管に入り込み、頭を動かすと一時的に強いめまいが起きることもあります。 - 頭をぶつける等の怪我
脳震盪や頭のケガ、むち打ちなどによって、前庭と脊髄や筋肉をつなぐ神経の道が傷つくと正確な情報の送受信が出来なることがあります。 - 年を取ること
年を重ねると、前庭のセンサーや筋肉が自然に少しずつ衰えて、バランスをとる力が落ちてきます。 - ストレス
長く続くストレスは、身体の筋肉を緊張させやすく、めまいやふらつきの症状を悪くしてしまうことがあります。 - 首のトラブル
首の骨や筋肉に問題があると、前庭からの情報がうまく伝わらなかったり、首自体が原因でめまいが起きたりすることがあります(頚性めまい) - 脳の病気
脳の一部(脳幹や小脳など)に病気があると、前庭からの情報を処理する場所がうまく働かなくなり、バランスが崩れることがあります。 - 薬の影響
一部の薬(例えば、利尿薬やある種の抗生物質、心臓の薬など)が、めまいを引き起こしたり、前庭の働きを悪くしたりする事もあります。
このに様々な原因で、前庭脊髄反射(VSR)がうまく働かなくなると、めまい・ふらつき、転倒、姿勢不良、首こり(痛み)等の症状が出ることがあります。
前庭脊髄反射の乱れるであちこちが痛くなる

前庭脊髄反射(VSR)がうまく働かないと、バランスを保つために無意識にいつもと違う姿勢をとったり、変な動き方をする様になります。
例えば、ふらつきを抑える為に首・肩の筋肉にずっと力が入り、それが原因で慢性的な首肩こりになることがあります。
同じように、身体の中心(体幹)が不安定になると、腰に負担がかかり慢性腰痛につながることもあるのです。
姿勢が悪くなると身体のあちこちの筋肉や骨に負担がかかり、慢性的な不が出るリスクも高まります。
特に、首の調子が悪いと、めまいと一緒に首の痛みが出る「頚性めまい」も併発する可能性があります。
5. 前庭脊髄反射(VSR)のまとめ
前庭脊髄反射(VSR)は、意識せずにバランスを保ち姿勢を安定させてくれる大切な仕組みです。
もしこ前庭脊髄反射(VSR)に不調が出ると、めまいやふらつきだけでなく、身体のあちこちが痛くなる慢性痛につながる可能性があります。
一般的な整体で症状が改善されない場合は、筋肉だけでなくこの様な脳神経学の考えも重要になってきます。
大阪府高槻市のぎの整体院では、この様な考えも取り入れて症状改善を目指します。
様々な症状でお悩みの方はお任せ下さい。
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