腰痛の原因は脳にある?脳神経学の視点から腰痛を読み解く

慢性的な腰の重だるさが続いている。
レントゲンでは「年相応ですね」と言われた。
整体やマッサージで一時的には楽になるけれど、しばらくするとまた痛くなる。

こういう「良くなった気がするけど、結局戻る」という腰痛に悩んでいる方は、とても多いと思います。
「椎間板ヘルニア」「骨盤の歪み」「筋力不足」…
原因としていろいろ言われますが、実際にはそれだけでは説明しきれない腰痛がたくさんあります。

ここでは、次の3つを脳神経学という少し違った角度から整理していきます。

  • なぜ腰痛の多くが「原因不明」と言われるのか

  • 椎間板の異常や「歪み」が、そのまま痛みの犯人とは言えない理由

  • 三半規管・小脳・危険予測など、脳側のはたらきが腰痛にどう関わるのか

※ 強いしびれ・脱力・排尿排便の異常・発熱・がんの既往などを伴う腰痛は、まず病院で検査を受けてください。
そのうえで「大きな異常はないと言われたのに痛みが続く」ときの考え方の一つとしてお読み下さい。

1. 腰痛の約 85% は「検査では原因が特定できない」

腰痛は、日本人の大人の多くが一度は経験すると言われています。
一方で、レントゲンや MRI、血液検査などで「これが原因です」とはっきり言える腰痛は、ごく一部に限られます。

腰痛は大きく、次の 2 つに分けて考えられます。

  • 特異的腰痛(約 15%)
    骨折・感染症・腫瘍など、検査で原因がはっきり分かるタイプの腰痛

  • 非特異的腰痛(約 85%)
    検査では大きな異常が見つからない、いわゆる「原因不明」とされる腰痛

多くの腰痛ガイドラインでは、「一般的な腰痛の大部分は非特異的腰痛。画像所見と痛みは必ずしも対応しない」と説明されています。

つまり、「検査で異常なし=気のせい」ではありません。
「今の検査では、ひとつの原因を特定できない腰痛が多い」という意味合いに近いと考えた方が自然です。

この前提があると、次の「椎間板ヘルニア」の話が少し違って見えてきます。

2. 椎間板ヘルニアは痛みが無い人にも起こる

2-1. 有名な MRI 研究が伝えていること

腰痛の原因として、よく名前が挙がるのが「椎間板ヘルニア」です。
ただ、「ヘルニアがある=必ず痛みの原因」とは言い切れないことが、画像研究から分かっています。

代表的な研究のひとつに、Jensen らによる腰椎 MRI の研究があります(Jensen et al., New England Journal of Medicine, 1994)。

腰痛無しのボランティア98名を対象に腰椎のMRI撮影して、次の結果が報告されています。

  • 参加者全体の64%に、何らかの椎間板異常(膨隆・変性など)が見つかった

  • 52%に「椎間板の膨隆

  • 27%に「椎間板ヘルニアなど)」

  • 1%に、大きな飛び出し

腰痛がまったく無い人たちを調べても、約3人に2人で椎間板の膨らみやヘルニアなどの変化が見つかっています。

この研究以外にも、整形外科系の専門誌では「腰痛のない人でも6〜8 割ほどで椎間板の変性膨隆が見られ、年齢が上がるほど割合が増える」という傾向が報告されています。

この記事では紙幅の関係で、代表的な論文を 1 本だけ具体的に挙げています。
より詳しい文献名や他の研究結果について知りたい場合は、腰痛ガイドラインや一次文献、専門医の解説などもあわせて確認してみてください。

2-2. 椎間板の「膨隆」「変性」の意味

椎間板は、背骨と背骨の間にあるクッションのような組織です。
真ん中にゼリー状の髄核があり、そのまわりを線維輪という硬めの組織が取り囲んでいます。
年齢や日常の負荷が積み重なると、中身の水分が減って黒っぽく見えたり、外側が少しふくらんだりしていきます。

イメージとしては、次のような違いがあります。

  • 膨隆
    クッション全体が、ぐるっと外側へふわっとふくらんでいる状態

  • ヘルニア
    クッションの一部が外側へ飛び出し、神経の近くまで迫っている状態

  • 変性
    椎間板の水分が減って高さが低くなったり、MRIで黒くつぶれたように見える「年齢変化」も含む状態

ここで大事なのは、こうした変化があっても痛み無しの人がかなり多いという点。
椎間板の変化そのものは、白髪やシワのように多くの人に起きる変化も含んでいます。

だからこそ、「画像で変化が見つかった=それだけが腰痛の原因」と決めつけると、本当の背景にある脳や神経のはたらきを見落としてしまう可能性があります。

3. 歪みは悪者では無く脳が作った結果

整体やマッサージの現場では、「骨盤の歪み」「背骨の歪み」が腰痛の原因と説明されることが多いです。
実際にチェックすれば、左右差やねじれが見つかります。

ただ、身体はもともと左右対称ではありません。
利き手・利き足、スポーツ歴、仕事や家事のクセ、過去のケガにくわえて、内臓の位置なども左右で違います。
そのため、完全に左右ピッタリ同じ姿勢では安定しません。
左右差に合わせてバランスを取る必要があります。

筋肉は、脳から「ここは力を入れよう」「ここは力を抜こう」という指令があってはじめて働きます。
言い換えると、身体の歪みや筋肉の緊張は、脳が作り出した「出力の結果」です。

出力の背景には、三半規管などから入るバランス情報や小脳が担う動きの連携、「ここは危ないかもしれない」という危険予測など、入力側の問題が隠れていることがよくあります。

脳が身体の地図(ボディマップ)をどう描いているかという視点については下記も参考にお読みください。
脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由

4. 腰痛のスタート地点は「危険かどうか」を決める脳の判断

三半規管 脳

脳の最優先は、「身体を守ること」です。
脳は全身から多数の情報を集めて「今、安全か? 危険か?」を常に判断し続けています。

脳に届く情報に下記の様な様々です。

  • 三半規管や耳石器からのバランス情報(前庭機能)
  • 関節や筋肉・皮膚からの体性感覚(とくに深部感覚)
  • 目や耳から入る外の情報
  • 過去のケガや痛みの記憶、不安やストレス

脳は多くの情報をまとめて「この場所はあまり動かさない方が良さそうだ」と判断した場所は、筋肉の緊張を増やす指令を出します。
さらに「本格的に危ない」と判断したら、痛みというブレーキをかけて強めに動きを制限します。

良い情報が正確に入り、「このくらい動かしても大丈夫」と予測できる状態は、脳にとっては「安全寄り」の身体です。
悪い情報や、感覚があいまいで「実際どうなっているのか、いまいち分かりにくい」と感じる身体は、「不安・危険寄り」と判断されやすいです。
危険寄りの判断で、筋肉を必要以上に硬めたり痛みを出しやすくなります。

こうした防御反応が長く続くと、「検査は異常無しでも、腰の痛みが続く」状態になりやすいです。。

脳がこうした「危ないかどうか」をどう判断するかの全体像については下記も参考にしてみてください。
脳が安心すると痛みが減る ― 神経学トレーニングとは?

5. 三半規管と小脳から見た腰への負担

ここからは、腰痛とつながりやすい三半規管(前庭機能)と小脳について、もう少し具体的にイメージできるように整理していきます。

小脳

5-1. 三半規管(前庭機能)は「どの姿勢を正しいと感じるか」に影響する

三半規管は、耳の奥にある「頭の回転を感じるセンサー」です。

耳石器と合わせて前庭機能と呼ばれ、頭の向きや動きを脳に知らせています。
前庭からの情報は、脳幹や小脳に送られ、姿勢や目の動きを調整するために使われます。

このバランス情報があいまいや、左右どちらかに偏りがあると、脳は次のように判断しやすくなります。

  1. 本当は少し傾いた姿勢なのに、「これがまっすぐだ」と勘違いする
  2. 倒れないように体幹や腰まわりの筋肉を必要以上に緊張させる

このような状態が続くと、「腰の一部だけに負担が集中しやすい姿勢」が習慣になり、慢性的な腰痛につながる可能性があります。

三半規管や前庭機能そのものについては、下記のページでより詳しく解説しています。
目を閉じてもフラフラしない秘密!三半規管がバランスをとる仕組みを徹底解説
頭が動いても視界はブレない!前庭動眼反射(VOR)の仕組みと整え方
姿勢を保つヒミツは前庭脊髄反射(VSR)|ふらつきと慢性痛との関係

5-2. 小脳は「動きの連携」と「腰への力のかかり方」に関わる

小脳は、身体の動きをなめらかにつなげる「調整役」のような場所です。

複数の筋肉をタイミングよく働かせたり、「これからこう動くから、その前に姿勢を整えておこう」と先回りして準備する役割があります。

小脳の働きがうまく発揮されないと、次のパターンが出やすくなります。

  • 反り腰になりやすい

  • 片側の脚ばかりで体重を支えるクセが強い

  • 歩くときの左右の重心移動がぎこちない

こうしたクセが続くと、腰の特定部分だけが頑張る事になり負担がたまりやすくなります。
結果、「同じ場所が何度も痛くなる」「少しの動きで腰が怖い」等の状態が長引くことがあります。

小脳と痛み・しびれ・危険予測との関係や、運動療法とのつながりについては下記も参考にしてみてください。
小脳から考える運動療法|痛み・しびれを「危険予測」とボディマップから改善

6. まとめ|どこが悪い?に加えて「どう認識されている?」を見る

ここまでの内容を、あらためて整理します。

  • ・腰痛の8〜9 割は「非特異的腰痛」であり、検査で原因が絞り込めないタイプ
  • ・椎間板の膨らみやヘルニア、椎間板の変性などは、腰痛のない人にも高い割合で見つかる
  • ・ヘルニアがあるから必ず痛いとは言えない
  • ・身体の歪み自体が悪者ではなく、脳が出す出力の結果
  • ・出力には、前庭機能・小脳の動きの連携・ボディマップの精度、危険予測等の、脳側の働きが関わる
  • ・「身体がどうなっているか、そこそこ分かる状態」で、脳は「安全寄り」判断をする
  • ・「よく分からない身体」は「不安・危険寄り」と判断されやすい
  • ・「不安・危険寄り」判断から筋緊張や痛みのブレーキが出やすくなる
  • ・腰痛改善には「脳の身体の認識」という入力側の視点も重要。

大阪府高槻市の「ぎの整体院」では、状況にあわせて三半規管などの前庭機能や小脳の働きも確認します。
整体による「外側からのサポート」と、セルフケアによる「脳への入力」を組み合わて腰痛改善を目指していきます。

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