「検査では異常なし」と言われても腰が痛いのはなぜ?
・レントゲンやMRIでは「これといった異常はない」と言われた
・「筋肉が硬い」「骨盤が歪んでいる」と説明されたけれど、ピンとこない
・マッサージやストレッチを続けているのに、腰痛が何ヶ月もよくならない
こんなお悩みで、ぎの整体院に来られる方も多いです。
近年の痛みの研究では、「腰そのもの」だけでなく、脳と神経の働きが慢性腰痛に大きく関わっていると考えられることが増えてきました。
このページでは、下記をできるだけ専門用語を避けながらお話していきます。
- 痛みを出す最終決定をしている「脳の危険判断」
- 慢性腰痛で話題になる「中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)」という考え方
- 脳内の身体地図=ボディマップの役割
- ぎの整体院が神経学の視点から行っているアプローチ
※「マッサージと腰痛の関係」を知りたい方は
『腰痛がマッサージで良くならない理由|脳と神経から考える慢性腰痛のメカニズム』
のほうが読みやすいと思います。
ここでは、もう少し仕組み寄りのお話をしていきます。
1.ここで扱うのは「慢性腰痛」
このページで対象にしているのは、次の条件をみたす慢性腰痛です。
- ・レントゲンやMRIなどの検査では「骨折・病気等の異常無し」
- ・それでも3か月以上、腰の痛みや重だるさが続く
世界的にも、こうした腰痛の多くは「原因が一つに特定しきれない腰痛(非特異的腰痛)」とされており、慢性腰痛の大部分を占めると報告されています。
「筋肉が硬いから」「骨盤が歪んでいるから」といった単純な説明だけでは足りない、というのが現在の考え方です。
一方で、発熱・排尿・排便の障害を伴う腰痛等は、整体よりも病院での検査が最優先 になります。
2.痛みは「脳の危険判断」というブレーキ信号
2-1.痛みはどこで決まっているのか?
最近の痛み研究では、痛みは「腰から勝手に上がってくる信号」ではない。
脳が『ここは危ないかもしれない』と判断したときに出すブレーキ信号と考えられることが増えています。
脳は常に、次のような情報をまとめて評価しています。
- 腰や背中、足などの筋肉・関節・神経からの刺激
- 過去に腰を痛めた経験
- 「またギックリ腰になったらどうしよう」という記憶や不安
- ストレス・睡眠不足・疲労など、その日のコンディション
- 仕事や家庭の状況、「休めない」というプレッシャー
これらを総合して、このまま動き続けると危ないか?
それとも、まだ動いて大丈夫か?
を一瞬で判断し、「ここは一旦ストップ」となったときに、・腰の痛み・筋肉のこわばり・動きにくさ等のブレーキをかけるイメージです。
2-2.ボディマップ(身体地図)という考え方
脳の中には、「自分のからだが今どうなっているか」をざっくりとつかんでいる全身のイメージ図があると考えられています。
腰はこのあたり・膝はこの位置・ここの力が入っている等の情報をひとまとめにした「からだのイメージ」です。
脳の中にある全身のイメージ図を地図にたとえて表現したものが、ボディマップ(身体地図)と呼ばれます。
目を閉じていても自分の腰や膝の位置がなんとなくわかるのは、このボディマップのおかげだと考えられています。
ところが、長年の痛みや動きのクセなどでこのボディマップがぼやけてくると、腰の位置・方向・力の入れ具合等を脳が正確につかみにくくなります。
脳からすると、「身体の状態がよくわからない=本当に安全かどうか自信が持てない」。
という状況になるので、念のため強めにブレーキ(痛み)をかけやすくなると考えられます。
ボディマップについては、こちらでイラストも交えて詳しく解説しています。
ボディマッピングとは?
ボディマッピングで痛みや動きを予測する考え方
腰痛だけでなく、姿勢やバランスが気になる方にも共通する大事なテーマです。
3.慢性腰痛と「中枢性感作」という考え方
痛みが何ヶ月も続くと、一部の人では脳や脊髄の痛みの回路が過敏になっている状態(中枢性感作:ちゅうすうせいかんさ)が関わっているのではないかと言われています。
中枢性感作を、とてもざっくり言うと次の状態を説明するための言葉です。
-
本来なら「そんなに痛くないはず」の刺激でも強く痛く感じてしまう
-
別の場所の刺激まで「痛み」として広がって感じてしまう
慢性腰痛の人を対象にした研究では、一部の人で、このような「痛みの過敏さ」が見られる。
ただし、全員がそうなっているわけではなく研究結果にバラつきがあり、はっきりしない点も残っていると報告されています。
つまり、「慢性腰痛 = すべて中枢性感作」というわけではありません。
そうした変化が関わっていそうな人もいるという段階(未確立)というのが、現時点での位置づけです。
3-2.ぎの整体院としてのとらえ方
当院では、「あなたの腰痛は中枢性感作です」と決めつけることはしません。
というより、検査で白黒つけられるものでもありません。
ただ、「もしかすると、痛みの回路が少し敏感になっているかもしれない」前提で次の話をしています。
-
痛みは「身体を守るブレーキ信号」
-
脳が「これは安全な動きだ」と感じられる経験を増やす
「中枢性感作」という言葉そのものは覚えてもらう必要はありません。
大事なのは、「痛み=壊れている証拠」と思い込みすぎないこと。
「脳が少し敏感になっているだけかもしれない」という視点を持つことだと考えています。
4.脳には「痛みを抑える仕組み」も備わっている
4-1.下行性疼痛抑制系というブレーキ
痛みの話をすると、「脳が痛みを増やしているの?」
と不安になる方もいますが、
実は脳には痛みを抑える仕組みも備わっています。
その一つが、下行性疼痛抑制系(かこうせい・とうつう・よくせいけい)と呼ばれるシステムです。
ざっくり言うと、次の働きをしていると考えられています。
-
脳幹と呼ばれる部位(とくに橋・延髄網様体:PMRF など)から
-
「もうこれ以上痛くしなくていいよ」という信号を
-
脊髄の痛みの回路に向けて送り、痛みを抑える
下行性疼痛抑制系は
・運動をしているとき
・夢中になって何かに集中しているとき
・「大丈夫そうだ」と安心できているとき
などに、痛みを和らげる方向に働く仕組みが関わっていると考えられています。
この痛みのブレーキについては、
下行性疼痛抑制系と整体の関係
で詳しく解説していますので、より深く知りたい方はあわせてご覧ください。
4-2.PMRF(橋・延髄網様体)と姿勢・バランス・痛み
当院では、脳幹の中でもPMRF(橋・延髄網様体)という部位にも注目しています。
PMRFは、下記に関わっていると考えられています。
-
姿勢の調整
-
筋肉の緊張バランス
-
痛みの抑制システム(下行性疼痛抑制系)の一部
そのため、ふらつき・バランスの悪さ・慢性的な筋緊張等の関連も指摘されています。
このあたりの内容は少し専門的になりますが、興味のある方は
PMRF(橋・延髄網様体)と痛みの制御
も参考にしてみてください。
5.ぎの整体院の「神経学トレーニング」とは?
ここまでは「痛みの仕組み」のお話でした。
ここからは、当院が実際に行っているアプローチについて、概要をお伝えします。
5-1.筋肉ではなく「入力」と「ボディマップ」に注目
一般的な整体では、筋肉をほぐす・関節を動かす・歪みを整える等の視点が多いと思います。
ぎの整体院では、「腰そのもの」よりも「脳に届く情報(入力)と、脳の身体地図(ボディマップ)」に注目して腰痛を考えます。
ボディマップは2章でお話ししたとおり、「自分のからだが今どうなっているか」という全身のイメージ図を脳の中の地図にたとえたものです。
-
同じ刺激でも、「どこの、どれくらいの刺激か」を正確に脳が受け取れていない
-
からだの位置感覚がぼんやりしている
-
腰だけでなく、足首・股関節・背骨・目や耳の情報処理にも偏りがある
こうした情報のゆがみ(ボディマップのエラー)があると、脳は安全・危険の判断をしにくくなり、結果として「痛み」というブレーキに頼りやすくなります。
5-2.神経学トレーニングの具体例
当院で行う「神経学トレーニング」は、きつい筋トレやストレッチではなく、神経への入力を丁寧に整えるエクササイズです。
-
軽いタッチや関節の微細な動きで、脳に「ここに腰がありますよ」と伝え直す
-
眼球運動や前庭系(平衡感覚)を使って、姿勢・バランスと痛みの関係を整える
-
神経ストレッチ(神経に軽いテンションをかける運動)で「動いても大丈夫」という感覚を育てる
-
ボディマッピングのワークで、「どこが、どの方向に、どれくらい動いているか」を再学習する
といったものを、症状や反応に合わせて組み合わせます。
それぞれの考え方・具体例は、以下のページで詳しくご紹介しています。
脳と神経から整える神経学トレーニング
神経ストレッチの目的と注意点
運動療法(神経学トレーニングの一例)
5-3.「受けっぱなし」ではなく「自分で調整できる腰」へ
施術を受けていただくだけでなく、下記もお伝えしています。
-
ご自宅でできる簡単な神経学トレーニング
-
日常生活の中で気をつけたいポイント
目指しているのは、「自分でもある程度コントロールできる腰」になっていただくことです。
6.「脳と神経から腰痛を見直したい」とお考えの方へ
-
「検査では異常がないと言われたけれど、腰痛が続いて日常生活に困っている」
-
「強く揉まれるほど不安になるので、別の視点から整えたい」
-
「根本的に、体の使い方や脳の反応から変えていきたい」
と感じておられる方は、下記のページもあわせてご覧ください。
脳と神経から整える神経学トレーニング
ボディマッピングとは?
神経ストレッチの目的と注意点
一人で不安を抱え込まず、脳と神経の働きから腰痛を見直すという新しい選択肢を、ぜひ知っておいてください。
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