痛みの不思議と体内に秘められた鎮痛システム

痛みは、私たちの体が危険を知らせるための大切なサイン。
身体に何か良くないことが起きたとき、それを教えてくれるアラームのような役割を果たします。
でも、同じくらいの刺激を受けても人によって痛みの感じ方が違うことがありますよね。
例えば、スポーツの試合中に怪我をしても、気が張っている間はあまり痛みを感じない。
なんて話を聞いたことがあるかもしれません。
これは、痛みを抑えるための特別な仕組みが備わっているためです。
下行性疼痛抑制系とは何か(脳の仕組みと痛みを抑えるメカニズム)

下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)とは、簡単に言うと脳が痛みを和らげるために備えている「痛みのブレーキ(痛み止め薬)」のようなシステムです。
身体は、ケガなどで痛み刺激を受けたときに、脳幹から脊髄へ信号を送り痛みの伝わりすぎを抑える仕組みが備わっています。
か構成疼痛抑制系の経路では神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが放出され、脊髄で痛み信号をキャッチする受容体に作用して痛みを抑制します 。
例えばスポーツ中にケガをしてもすぐには激しい痛みを感じないことがありますが、これも脳からの痛み抑制システム(下行性疼痛抑制系)が働いているためだと考えられます。
通常、下行性疼痛抑制系がしっかり働くことで必要以上の痛みを感じずに済むようになっています。
しかしこの機能が低下・失調すると、痛みを抑えるブレーキが利かなくなります。
そのため、痛みを過剰に感じたり長引かせてしまうことになります。
実際、セロトニンやノルアドレナリンの分泌が十分でない人では痛み抑制の作用がうまく働かず痛みを感じやすい傾向があります。
その結果、慢性的な痛みに悩まされるケースに繋がりやすい。
この様に、下行性疼痛抑制系は痛みの感じ方を左右する重要な脳の仕組みです。
第1部:痛みの抑制を簡単に理解する

痛みを感じる仕組み:痛みの信号はどのように伝わるのか

まず、痛みを感じる基本的な流れを見ていきましょう。
身体には、「痛覚センサー」(侵害受容器等)が全身に張り巡らされています。
痛覚センサーは、熱さ、圧力、体に良くない化学物質など、危険な刺激をキャッチします。
刺激が加わると、痛覚センサーが電気信号を作り神経という電線を通って、背骨の中にある脊髄に送られます。
この信号が脳に向かって上がっていくルートを「上り坂ルート」(上行生)と呼びましょう。
脊髄には、痛みの種類によって信号を伝える2種類の神経線維があります。
一つは、素早く「チクッ」とした痛みを伝える線維。
もう一つは、ゆっくりと「ズキズキ」とした痛みを伝える線維です。
脳からの痛みの制御:下行性疼痛抑制系
脳は、ただ痛みの信号を受け取るだけでなく、その信号をコントロールする機能も持っています。
それが、「下行性疼痛抑制系」です。
このシステムは、脳から脊髄に下に向かって(下行性)「痛みを抑えて!」という指令の信号を送ります。
すると、脊髄のレベルで脳へ向かう痛みの信号が弱まったり、途中でブロックされたりして、痛みの強さが調節されます。
これは、脳からの「トップダウン」の制御メカニズムと言えます

例え話で理解する下行性疼痛抑制系
下行性疼痛抑制系が、どのように痛みを抑えているのか?
例え話でイメージしてきましょう。
交通整理をする警察官

痛み信号=脳に向かって走る車
下行性疼痛抑制系=交通整理する警察官
と考えてみましょう。
警察官が車の流れをスムーズにしたり、スピードを調整することで、交通渋滞(痛みが強く感じること)を防ぎます。
同じように、下行性疼痛抑制系は、痛みの信号が脳に必要以上にたくさん伝わるのを防ぎ、痛みを和らげるのです 。
音量調節のつまみ

身体には、痛みの音量を調節できるつまみがあると考えてみてください。
怪我をしたときなど、痛みの音が大きすぎる!
と感じたときに、下行性疼痛抑制系がそのつまみを回して、音量を小さくしてくれるイメージです。
完全に音を消すわけではありませんが、痛みの強さを、私たちが我慢できるくらいまで下げてくれるのです。
鳴りやまない家のベル

慢性的な痛みは、一度押したらずっと鳴り続けてしまう家のベルのイメージ。
最初の怪我はもう治っているかもしれないのに、なぜか「ベル」(痛みの信号)が鳴り続けている状態です。
本来ならその音を止めるはずの下行性疼痛抑制系が、うまく機能していない可能性があります。
自然な鎮痛システムに影響を与えるもの
身体にもともと備わっている痛みを抑える仕組みは、様々な要因によって、その働きが変化します。
アドレナリン
大事な試合中に怪我をしても、終わるまでほとんど痛みを感じない、あるいは全く感じないというアスリートがいます。
この経験をされて方は多いと思います。
これは、試合にものすごく集中したり、興奮するとホルモン(アドレナリン)が出ます。
アドレナリンの影響で、下行性疼痛抑制系がいつもより強く働き、痛みの信号を効果的にブロックしているためと考えられます。
試合が終わってホッとすると、集中が途切れて下行性疼痛抑制系の力が弱まり痛みを感じ始めるのです
気持ち
感情は、痛みの感じ方に大きく影響します。
例えば、ストレスを感じたり、不安になったり、気持ちが落ち込んだりすると、下行性疼痛抑制系の働きが弱くなり、痛みをより強く感じやすくなります。
逆に、楽しい気持ちや安心した気持ちでいると、下行性疼痛抑制系が強化される可能性があります 。
ストレス
急なストレスを感じたときは、体が「戦うか逃げるか」というモードに入り、一時的に痛みを抑えるホルモンが分泌されることがあります 。
しかし、ストレスが長く続くと、下行性疼痛抑制系が疲れてしまい、痛みに敏感になってしまうことがあります 。
集中と注意
何かに一生懸命集中しているときや、夢中になれる楽しいことをしているとき、脳は痛みの感覚をシャットダウンしたり、軽くしたりすることがあります。
これは、意識が痛みから他のことに向かい、下行性疼痛抑制系が活性化されるためだと考えられています。
痛みを紛らわせる方法が効果的なのは、この仕組みを利用しているからです。
第2部:下行性疼痛抑制系と慢性疼痛
下行性疼痛抑制系の主な役割は痛みのブレーキ。
脊髄に届いた痛みの信号が脳に過剰に伝わるのを防ぐことです。
これが身体の中で自然に働く「痛みのブレーキ」です。
このブレーキが正常に機能することで、必要以上に痛みを感じずに生活が出来るのです。
ところが、この下行性疼痛抑制系の働きが弱くなったり、バランスが崩れたりすると、本来抑えられるはずの痛みが強く感じられたり、痛みが長く続いてしまうことがあります。
これが、慢性疼痛と呼ばれる状態と深く関わっています 。
なぜブレーキが壊れてしまうのか?
下行性疼痛抑制系のブレーキがうまく機能しなくなる原因は様々です。
- 神経の損傷
神経そのものが傷ついてしまうと、痛みの信号を伝えるルートだけでなく、痛みを抑えるルートもうまく機能しなくなることがあります。 - ストレスや心理的な問題
ストレスを長く感じたり、不安や憂うつな気持ちが続いたりすると、脳の機能が変化し、下行性疼痛抑制系の働きが弱まることがあります。 - 脳内物質のバランスの乱れ
痛みを抑えるために働くセロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質のバランスが崩れると、下行性疼痛抑制系が正常に機能しなくなることがあります。 - 身体の他の問題
例えば、線維筋痛症という病気では、体の広い範囲で慢性的な痛みが生じますが、この病気は下行性疼痛抑制系の機能低下と関連していると考えられています 。
下行性疼痛抑制系を再び働かせるために
慢性疼痛の改善には、この下行性疼痛抑制系の働きを再び正常に近づけることが重要になります。
- 薬物療法
抗うつ薬や特定の鎮痛薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えたり、下行性疼痛抑制系を活性化させたりする効果が期待できます。 - 運動療法
適度な運動は、ストレスを軽減し、脳内の血流を改善することで、下行性疼痛抑制系の働きを助ける可能性があります。 - 心理療法
認知行動療法などの心理療法は、痛みに伴う不安やストレスを軽減し、痛みの感じ方を変えることで、下行性疼痛抑制系に良い影響を与えることがあります。 - 鍼治療・電気刺激療法
これらの治療法は、体内の自然な痛みを抑える仕組みを活性化する可能性があります 。
痛みのコントロールに向けて
下行性疼痛抑制系は、痛みを感じる上で非常に重要な役割を果たしています。
下行性疼痛抑制系が正常に働くことで、過剰な痛みから守られています。
慢性疼痛は、このシステムの機能不全が関わっていることが多くあります。
下行性疼痛抑制系の働きと慢性疼痛の関係を理解できましたか?
ぎの整体院では、下行性疼痛抑制系の働きを正常に戻す事も考えながら施術を行なっています。
慢性痛でお悩みの方はご相談下さい。
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