脳が自分で痛みを抑える? 下行性疼痛抑制系の仕組みをやさしく解説

痛みを抑える脳の仕組み「下行性疼痛抑制系」とは?

下行性疼痛抑制系

「痛みを感じるのは脳」だと聞いたことがありますか?
実は、脳には痛みを抑えるためのシステムも存在します。

それが「下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)」と呼ばれる仕組みです。

脳の中では、複数の部位がチームのように連携して、
・もう危険ではない
・痛みを弱めてもいい
と判断すると、脊髄に向けて痛みを止める信号を送ります。

この自然な鎮痛メカニズムが正しく働くと身体は楽に動けるようになります。

※関連内容:
反対側を動かすと痛みが減る理由|PMRFと脳の仕組みを解説
(下行性疼痛抑制系が実際にどのように働くかを動きの視点から詳しく紹介しています)

1. 痛みは「感じる」だけでなく「調整できる」

疼痛抑制

痛みは、身体に異常が起きたときに危険を知らせる大切なサイン
けれども不思議なことに、同じようなケガをしても「とても痛い人」もいれば「そこまで痛くない人」もいますよね。

例えば、スポーツの試合中はケガをしてもあまり痛くない。
それが試合が終わって落ち着いた途端に痛み出すということもあります。

これは脳が自分の判断で痛みをコントロールしているため。
その中心が下行性疼痛抑制系という脳の痛みブレーキ機能です。

2. 痛みを感じるとき、脳のどこが働いているのか

大脳 小脳 脳幹

まず、痛みを「感じる」ときに働いている脳の仕組みを見てみましょう。

私たちの脳は大きく分けて「大脳」「小脳」「脳幹」の3つで構成されています。
このうち、意識して考えたり感じたりする部分が大脳です。

大脳の表面はシワの多い層になっており、ここを大脳皮質と呼びます。
大脳皮質が、痛みを「感じる」「考える」「対処する」といった働きを担っています。

そして、大脳皮質の中でも特に痛みの感じ方・気持ちのコントロールに関係しているのが下記の2つのエリアです

脳の部位 主な役割
前頭前野 冷静に考え、安心や落ち着きをつくる。理性的な判断を行う。
前帯状皮質 痛みのつらさや不快感を処理。感情面での痛みを調整。

つまり、「痛い」と感じる強さや、どのくらい不快に思うかは、大脳皮質の働き方で変わるのです。

3. 脳が痛みを受け取る流れ

疼痛

身体にケガなどの刺激が加わると、皮膚や筋肉にある痛覚センサーが反応します。
痛覚センサーの情報が電気信号となって脊髄に送られます。
そこから脳へと信号が上がっていく上行経路を通り、脳の中でさまざまな処理が行われます。

痛みの情報は、まず大脳皮質に届き、

  • どこが痛いのか?」を感じ取る体性感覚野

  • どれくらいつらいのか?」を感じる前帯状皮質

  • どう対応するか・落ち着いて判断する」前頭前野

などで同時に処理されます。
このように、痛みは身体の信号脳の解釈が合わさって生まれる体験なのです。

4. 下行性疼痛抑制系は 脳が自分で痛みを抑える仕組み

痛み信号を受け取った脳は、「これはもう危険ではない」と判断すると、脊髄に向かって「痛みを弱めていいよ」という信号を送ります。
この仕組みを下行性疼痛抑制系と呼びます。

この回路は、次のように連携して働いています。

順番 主に働く部位 役割
前頭前野 落ち着いた判断・安心感の形成
前帯状皮質 痛みのつらさや感情を調整
中脳のPAG(中脳水道周囲灰白質) 痛みブレーキのスイッチをON
橋・延髄のPMRF(橋・延髄網様体) 実際に痛みを止める信号を脊髄へ送る
脊髄後角 痛み信号の伝達をブロックする

簡単に言えば、前頭前野前帯状皮質が痛みを抑えるべき状況かを判断します。
PAGPMRFがその判断を実行に移す。
これが脳による痛みの制御システムです。

下行性疼痛抑制系

5. PAGとPMRF は脳幹の痛みブレーキ

脳が痛みを抑えるとき、実際に指令を実行する現場が脳幹の中にあります。
その中心を担うのが PAG(中脳水道周囲灰白質) と PMRF(橋・延髄網様体)。

脳が「痛みを抑える」と判断すると、まず中脳にある PAG(中脳水道周囲灰白質)スイッチを入れます。

その信号が橋や延髄にある PMRF(橋・延髄網様体) に伝わります
PMRFは実際に脊髄へ「痛み信号を止めろ」という命令を送ります。

つまり
PAGはスイッチを入れる司令塔
PMRFは命令を実行する現場部隊

2つが協力することで、痛みを感じる神経経路が抑制されます。
この流れをもう少し詳しく見ていきましょう

PAG(中脳水道周囲灰白質)とは

中脳水道

PAGは、脳幹の上部「中脳」の中心にあります。

中脳の真ん中には中脳水道という細いトンネルが通ります。
その周囲に神経細胞が密集して灰色に見える層を 灰白質(かいはくしつ) と呼びます。

この灰白質の中にあるのがPAGで、「痛みを抑えるスイッチ」 の役割を果たしています。

PAGは前頭前野や前帯状皮質から「もう危険ではない」との情報を受けるとブレーキを入れ、PMRFへ痛み抑制の命令を送ります。

PMRF(橋・延髄網様体)とは

セロトニン ノルアドレナリン 下行性疼痛抑制系

PMRF(橋・延髄網様体)は、脳幹の下部の橋(きょう)や延髄に広がる神経ネットワークです。
網様体という名前の通り、神経が網のように張り巡らされています。

PMRF(橋・延髄網様体)は無意識の司令室で姿勢の維持や呼吸、自律神経の調整を担います。
痛みを抑える役割としてPAGからの命令を実際に脊髄に伝えます。

具体的にはPMRFは脊髄にセロトニンノルアドレナリン等の神経伝達物質を放出し、痛みを伝える神経細胞を抑制する働きを行います。

6. 感情・集中・ストレスもこの回路に影響する

下行性疼痛抑制系は、感情・集中・ストレスなど、脳の状態によって働き方が大きく変化します。

脳が安心モード・集中モードになると前頭前野・前帯状皮質が活性化し、痛みを抑える回路が自然に強く働きます。

安心・集中・喜びがブレーキを強くする

アドレナリン
  • 安心感・落ち着き → 前頭前野が活発になり、PAG(中脳)が痛み抑制スイッチを入れやすくなる。

  • 夢中・集中する → 痛みに注意が向かなくなり、PMRF(橋・延髄)が活性化。

  • 楽しい体験・達成感 → セロトニンやノルアドレナリンが分泌され、痛みブレーキが強化される。

例えば、スポーツの試合中にケガをしても、痛みに気づかないことがあります。
試合中はアドレナリンというホルモンが大量に分泌されています。
アドレナリンが脳幹(特にPMRF)や下行性疼痛抑制系を一時的に活性化させます。

脳が今は戦う時と判断し、痛みの信号を脊髄レベルでブロックしているのです。
試合終了後に痛みを感じ始めるのは、アドレナリンの分泌が落ち着きブレーキが解除されるからです。

つまり、「痛みを感じない状態」も、脳が意識的に抑えているのではなく、無意識の神経システム(下行性疼痛抑制系)が守ってくれているということです。

ストレスや不安がブレーキを弱める

強いストレスや不安が続くと、前頭前野や前帯状皮質の働きが低下し、PAGへの抑制スイッチが入りにくくなります。

  • 長時間の緊張・不眠・過労

  • 将来への不安や怒り

  • 続くストレス環境

これらが積み重なると、脳のブレーキが疲労し痛みの信号を止めにくくなります。
これが、慢性的な痛み(慢性疼痛)に繋がる原因の一つです。

7. 慢性痛は脳のブレーキが弱まった状態

下行性疼痛抑制系がうまく働かないと、脳が「もう大丈夫」と判断できません。
そのため痛みの信号を止められず慢性痛の原因となります

・ケガが治っても痛みが残る
・痛みが強く感じられる
それは痛みのブレーキが効かなくなっている状態かもしれません。
このようなときは、下記の可能性があります。

  • 長期ストレスや不安

  • セロトニン・ノルアドレナリンの減少

  • 前頭前野・前帯状皮質の機能低下

8. 痛みをコントロールするためにできること

下行性疼痛抑制系は、正しい刺激を与えることで再び働かせることができます。

  • 運動や整体などの感覚刺激 → PMRFを活性化し、脳への正確な入力を増やす

  • 安心できる環境・心理的ケア → 前頭前野の働きを高め、PAGを動かしやすくする

  • 深呼吸・瞑想・落ち着いた意識 → 自律神経を整え、痛みのブレーキを助ける

ぎの整体院では神経ネットワークを整えるアプローチを通じて、脳が落ち着けば痛みも落ち着くという身体づくりをサポートしています。

関連記事:反対側を動かすと痛みが減る理由|PMRFと脳の仕組みを解説
(痛みを抑える神経経路が、どのように動きと関係しているかを解説しています)

健康ブログについて詳しくはこちら

この記事に関する関連記事

大阪・高槻スポーツ整体 ぎの整体院