-
立ち上がるときに、ふっとふらつく
-
歩き出しの一歩目や、方向転換のときだけ不安定になる
-
筋力はあるはずなのに、力を抜く方が難しい・こわばる
こんなお悩みはありませんか?
検査で「筋力は問題ないですね」と言われても、
「じゃあ、なぜ無意識の姿勢が崩れるんだろう?」
「どうして歩行の安定感が出ないんだろう?」
と感じている方は多いです。
この「無意識の姿勢」「歩行の安定」「力が抜けない・こわばり」の裏側では、網様体脊髄路(無意識の姿勢や歩きやすさを支える神経の通り道)という神経の働きが、大きなカギを握っています。
そして当院では、これを「脳が未来の身体をどう予測しているか」という視点から、整体や運動療法に活かしています。
1. 無意識の姿勢とふらつきの仕組み
1-1. 「何も考えなくても立っていられる」は実はすごい
私たちはふだん、
「倒れないように重心を調整しよう」
「今、ふくらはぎに何%、お腹に何%の力を入れよう」
なんて意識していません。
それでも、なんとなく立っていられる・なんとなく歩ける・なんとなく手を伸ばしてもグラつかないでいられます。
これは、脳と脊髄の中に無意識に姿勢を支え続けるための自動運転システムがあるからです。
この自動運転システムが弱ったり不具合が出ると次のようなサインが出やすくなります。
-
ふらつきやすい
-
歩行の安定感がない
-
力を抜こうとしても抜けない(こわばり)
この自動運転の中枢の一つが、これから説明する網様体脊髄路(もうようたいせきずいろ)です
「歩くとふらつく」「筋力はあるのに不安定」と感じる方には、こちらの記事も参考になります。
歩くとふらつく原因は筋力ではなく神経のズレ?
2. 網様体脊髄路は無意識の姿勢を支える脳幹の指令線
2-1. 脳幹から背骨の中へ伸びる姿勢コントロールの道
網様体脊髄路は脳幹の中の「網様体」というエリアから、背骨の中の脊髄に向かって伸びる神経の通り道です。
網様体脊髄路は、体幹や肩・股関節など、手足のつけ根の筋肉に下記の指令を伝える役割を担っています。
-
無意識に姿勢を支える
-
筋肉の緊張(きんちょう)の強さを調整する
-
歩行のリズムや安定を助ける
「小脳や前庭機能」も、こうしたバランスの自動運転に深く関わります。
それについては、当院のこちらの記事で詳しく解説しています。
小脳と前庭機能でバランスを整える|ふらつき・慢性痛を神経学から解説
2-2. 「力を入れるチーム」と「力を抜くチーム」
網様体脊髄路の中には、次の2つがあります。
-
筋肉の緊張を高めて姿勢を保つチーム
-
筋肉の緊張をゆるめて力を抜かせるチーム
このバランスが整っていると、必要な時だけ自然に踏ん張れたり、いらないときはスッと力を抜けるという、しなやかな姿勢と動きになります。
逆にバランスが崩れると、いつも体がこわばる、立つとき・歩き出すときだけカクッとふらつく等の不調につながりやすくなります。
3. 「動くとふらつく」の正体と予測的姿勢制御
3-1. 手を動かす前に、もう足と体幹は準備している
「無意識の姿勢」が崩れる典型的な場面が、
・手を伸ばしたときにグラッとする
・歩き出しの一歩目でフラっとする
といった瞬間です。
ここには、予測的姿勢制御(動く前に、姿勢を先に準備する脳の働き)が関わっています。
たとえば、目の前のコップを取ろうとして手を前に伸ばすとき。
手が動き出す少し前からふくらはぎ・太もも・お腹・背中の筋肉が「前に倒れないように」そっと働き始めています。
これは、「これから手を前に動かすと、重心がこうズレるはずだ」と脳が未来の姿勢を予測し、先に姿勢を整えているのです。
この「予測的姿勢制御」の主役の一つが網様体脊髄路です。
予測的姿勢制御の仕組みがうまく働かなくなると、
-
動き出す瞬間だけグラッとする
-
バランスを崩すのが怖くて、動き出しがぎこちない
といった「動いた瞬間のふらつき」が出やすくなります。
3-2. 「未来の身体の予測」とボディマップ
当院では、予測的姿勢制御を「脳がこれからの姿勢の変化を予測し、倒れないように先回りして支える仕組み」と考えています。
このとき脳の中では、下記の情報をもとに、未来の身体の状態を予測しています。
-
自分の体が今どんな形をしているか(身体の地図=ボディマップ)
-
過去にどんな動きをして、どんな感覚を経験したか
-
これは安全な動きか、それとも危ないかもしれない動きか
この「ボディマップ」「危険予測」の話をまとめたのが、当院のこちらの記事です。
脳は未来の身体を予測して動く|ボディマッピングと危険回避の仕組み
脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由
ここで書いているように、脳は、ボディマップ(身体の地図)をもとに未来の動きを予測し、安全だと思えば動きを許可し、危険だと思えば痛みやこわばりでブレーキをかける。
というのが、当院のベースになっている考え方です。
4. 歩行の安定と「歩くリズムの回路」
歩いているとき、ずっと「右足、左足、右足、左足…」と意識している人はほとんどいません。
一度歩き出してしまえば、別のことを考えながらでも足は勝手に前へ出てくれます。
これを支えていると考えられているのが、中枢パターン発生器(歩くリズムを自動で作る脊髄の回路)です(英語名:Central Pattern Generator)。
研究では、次の仕組みが報告されています。
-
脊髄の中に「左右の足を交互に出すリズム」を作る回路がある
-
網様体脊髄路など、脳幹からの指令でそのスイッチが入る
こうした話は、もともと動物の研究からわかってきたものです。
そこから、人の姿勢や歩行の安定にも、同じように脳幹〜脊髄レベルのネットワークが関わっていると考えられています。
どの回路がどれくらい働いているかを施術の場で直接測ることはできません。
しかし、筋力だけでなく「無意識の姿勢調整」の質が歩きやすさや安定感に影響していると考えられるケースは多いです。
この「歩くときの安定」には、耳の奥のバランスセンサーである三半規管や、そこからの情報を姿勢に反映させる前庭系の反射も深く関わります。
前庭まわりの詳しい話は、こちらの三部作が参考になります。
三半規管とは?目を閉じてもフラつかないバランスの仕組みとめまいの関係
視界が揺れる・ふらつく原因と前庭動眼反射(VOR)|神経学的トレーニング解説
姿勢を保つヒミツは前庭脊髄反射(VSR)|ふらつきと慢性痛との関係
5. 脳卒中後のこわばり(痙縮:けいしゅく)と姿勢
脳卒中(脳梗塞・脳出血)などで脳の運動系が傷つくと、手足が動かしにくい(麻痺)や、細かい動きができないといった「力が出ない」という問題だけではありません。
・力を抜きたいのに抜けない
・手足が突っ張る(痙縮:けいしゅく)
・動かすと、意図していない場所まで一緒に力が入る
といった「こわばり・力が抜けない」問題がよく起こります。
この背景の一つとして、下記の状態が関わっているという説があります。
-
筋肉の緊張をゆるめるチームが弱くなる
-
筋肉の緊張を高めるチームが相対的に強くなる
-
網様体脊髄路の踏ん張り指令が強く出すぎる
もちろん、これは原因の一部であり、実際には、脳のさまざまな部位の障害・感覚の問題・心理的な不安や緊張なども絡み合っています。
ですが、「筋肉が悪い」のではなく、筋肉へ「どう力を入れるか・どう抜くか」を決めている神経側の問題という視点で見ることも大切です。
6. ぎの整体院がストレッチではなく「脳と神経」を見る理由
ここまで読んでいただくと、下記の問題の裏に、網様体脊髄路をはじめとした神経の働きがある、というイメージが少し湧いてきたと思います。
-
無意識の姿勢
-
歩行の安定
-
力が抜けない・こわばり
当院の整体・運動療法の特徴は、まさにここです。
6-1. 「筋肉」より先に「脳の予測」を整える
当院では、痛みやふらつき、こわばりを「筋肉そのものの故障」ではなく、「脳が未来の身体をどう予測しているか」のズレと考えています。
-
この姿勢で手を動かしたら、倒れそうだ
-
この足の位置から歩き出したら、危ないかもしれない
と脳が判断すると、無意識に筋肉を固める・可動域を勝手に制限する・痛みをブレーキとして出すといった反応が起きます。
この「脳の予測」をテーマにした記事がこちらです。
脳は未来の身体を予測して動く|ボディマッピングと危険回避の仕組み
また、「自分で動いて神経から整えたい」という方には、こちらもおすすめです。
運動療法で痛み・しびれを「神経から」改善するコツ
6-2. 整体と運動療法と神経ストレッチを組み合わせる
当院では、強いストレッチで無理やり筋肉を伸ばす、痛みを我慢してトレーニングする方法は基本的に行いません。
代わりに、次の3つを組み合わせてアプローチしていきます。
-
整体(神経系にとって安全な姿勢・感覚入力をつくる施術)
-
運動療法(自分で動いて神経の働きを高めていく練習)
- 神経ストレッチ(神経の滑りと情報入力を整えるストレッチ)
その土台として、ボディマッピング(身体の地図を書き換えるトレーニング)の考え方を大切にしています。
ボディマップの基本的な考え方は
脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由
で詳しく解説しています。
筋肉ではなく「神経」にフォーカスしたストレッチの目的ややり方は、
神経ストレッチの目的と役割|筋肉を伸ばしても変わらない痛みを「神経」から考える
にまとめていますので、「セルフケアにも神経の視点を取り入れたい」方はそちらも参考になると思います。
7. 今回の内容の注意点
ここでお話しした内容は、神経科学やリハビリテーション医学の研究をもとにした一般的な説明です。
実際の症状の原因や、適切な治療方針は人それぞれ異なります。
網様体脊髄路や中枢パターン発生器の詳しい仕組みは、現在も研究が続いており、まだはっきり分かっていない部分(未確立の部分)もあります。
脳卒中や脊髄の病気、難病などが疑われる場合は、必ず病院(脳神経内科・脳神経外科・整形外科・リハビリテーション科など)の受診が最優先です。
特に、次の症状は、救急受診が必要なサインです。
-
急に片側の手足が動かなくなった
-
ろれつが回らない
-
視野の半分が急に見えなくなった
-
経験したことのない激しい頭痛が出た
整体やリハビリより先に、必ず医療機関を受診してください。
8. まとめ
-
無意識の姿勢や歩行の安定には、脳幹から脊髄へ降りる網様体脊髄路が深く関わっている
-
予測的姿勢制御がうまくいかないと、動き出しの一瞬でふらつきやグラつきが出やすくなる
-
脳はボディマップ(身体の地図)をもとに未来の身体を予測し、危険だと判断すると痛み等でブレーキをかける
「筋トレしても、ストレッチしても、どうも安定しない…」
そんなときは、一度「筋肉」ではなく脳と神経の側から姿勢を見直してみると、これまで見えなかった改善のヒントが見つかるかもしれません。
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