捻挫や打撲などでケガをしたとき、「とりあえずRICE処置のアイシング」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
一方で、近年はPOLICE、PEACE & LOVEといった新しい考え方が提案されて「安静にして冷やすだけ」がベストとは限らないことが分かってきました。
ぎの整体院では、痛みのある部位だけでなく「痛みが出る手前まで動かす」「安全な動きを脳に入力していく」ことを大切にしています。
これは、PEACE & LOVEが強調する「適切な負荷」や「教育」とも相性が良い考え方です。こうした神経学的なアプローチについては、神経学トレーニング|脳と神経から症状を考える でも詳しく紹介しています。
このページでは、次の内容を出来るだけやさしく整理していきます。
-
RICE・POLICE・PEACE & LOVEの違い
-
なぜ「冷やして安静」だけでは不十分と考えられるのか
-
「痛みが出る手前まで動かす」こととPEACE & LOVEの関係
-
ぎの整体院としての、アイシングやセルフケアとの付き合い方
「スポーツ現場でRICEと教わったけれど、最近は違うと言われて混乱している」
「どこまで動かして良いのか分からない」
そんな親御さんや選手に考えてもらうきっかけになればうれしいです。
1. RICEとは何か?古くから使われてきた応急処置
まずは、多くの方が一度は聞いたことのあるRICEについて整理します。
これは整骨院の資格である柔道整復師の国家試験でも出題されたのを覚えています。
1-1. RICEの意味と目的
RICEは、
Rest(安静)
Ice(冷却)
Compression(圧迫)
Elevation(挙上)
の頭文字を取った、急性のケガに対する応急処置の考え方です。
-
動かさず安静にする
-
氷や保冷剤で冷やす
-
包帯などで軽く圧迫する
-
心臓より高く挙げる
といった対応で「炎症や腫れを抑え、痛みを軽くする」ことが狙いです。
1970年代頃に広まり、長く「ケガの基本」となっています。
痛みを和らげるという意味では、今でも有効な場面はあります。
1-2. RICEの限界と、なぜ見直されてきたのか
一方で、近年のスポーツ医学やリハビリの分野では、RICEの限界も指摘されるようになりました。
主なポイントは次の通りです。
-
長期間の安静は筋力やバランス機能の低下につながる
-
過度なアイシングは血流を下げ、組織の修復を遅らせる可能性がある
-
「安静と冷却」に意識が偏り、「いつから・どの程度動かすか」の視点が弱い
つまり、RICEは「一時的に症状を落ち着かせる」には役立ちますが、「その後の回復をどう進めていくか」までは十分に説明していないという課題があります。
2. POLICE:完全な安静から「最適な負荷」へ
こうしたRICEの限界を踏まえて提案されたのが、POLICEという考え方です。
2-1. POLICEの意味とポイント
POLICEは、
Protection(保護)
Optimal Loading(最適な負荷)
Ice(冷却)
Compression(圧迫)
Elevation(挙上)
の略です。
大きな変化は、
「Rest(安静)」→「Protection(保護)」+「Optimal Loading(最適な負荷)」
に分かれたことです。
-
まずはケガした部位を守り、悪化させないように保護する
-
必要以上に安静にするのでは無く、早い段階から安全な範囲で少しずつ負荷をかける
という考え方に変わっています。
ここで大切なのは、「まったく動かさない安静」では無く、「ケガした組織に無理をさせない範囲で動かす」ことです。
2-2. 「痛みが出る手前まで動かす」との共通点
ぎの整体院での運動療法等は、痛みが出る手前まで動かすセルフケアをおすすめしています。
これは、POLICEが大切にしている「最適な負荷」と考え方がよく似ています。
-
何も動かさないと、筋肉や関節はすぐに硬くなる
-
痛みを我慢して動かし過ぎると、組織へのダメージが増えたり痛みの記憶が強く残る
-
「痛みが出る少し手前」で止めることで、安全な範囲だけを身体と脳に覚えさせていく
こうした「ちょうど良い負荷」の考え方は、次に紹介するPEACE & LOVEへとつながっていきます。
3. PEACE & LOVE:組織だけでなく「人」を見る考え方
さらに近年では、PEACE & LOVEという新しいキーワードが提案されています。
これは、ケガの直後からその後のリハビリ・復帰までを通して考える枠組みです。
3-1. PEACE:ケガ直後に大切にしたいこと
PEACEは、
Protection(保護)
Elevation(挙上)
Avoid anti-inflammatories(抗炎症薬の乱用を避ける)
Compression(圧迫)
Education(教育)
の略です。
-
過度な安静では無く、悪化させないための「保護」
-
むやみに炎症反応を抑え過ぎないこと(抗炎症薬やアイシングの使い方に注意する)
-
患者さん自身が、自分のケガの状態や回復の見通しを理解する「教育」
といった点が強調されています。
ここで言う「抗炎症薬を避ける」は、自己判断で薬を中止するという意味ではありません。
「痛み止めだけに頼り過ぎず、医師の指示に従いながら必要最小限に使う」というイメージです。
ぎの整体院のスタンスとも共通するのは、「冷やすか・温めるか」だけでなく、患者さんが自分の身体の状態を理解して、安心して動かせるようにすることに重きを置いている点です。
3-2. LOVE:その後の回復期に大切な視点
LOVEは、
Load(適切な負荷)
Optimism(前向きな見通し)
Vascularisation(血流を促す運動)
Exercise(運動)
の頭文字です。
ここで言う「運動」には、単に筋トレやストレッチだけではありません。
神経や脳にとっての「安全な動きの再学習」という意味も含まれます。
ぎの整体院が大切にしている、
-
痛みが出る手前まで動かす
-
「この動きは大丈夫」という安全な情報を脳に入力していく
-
からだの使い方やボディマップ(身体の地図)を整えていく
といった神経学的なアプローチは、このLOVEの考え方と特に相性が良いと感じています。
こうした「痛みなく動けるパターン」の経験がたまるほど、脳の中のからだの地図(ボディマップ)が書き換わり、「この動きは安全」という情報が増えていきます。
ボディマップについて詳しく知りたい方は、
ボディマッピング・ボディマップとは?
もあわせてご覧ください。
4. ぎの整体院が考える「アイシング」と「安全に動かす」セルフケア
ここからは、RICE・POLICE・PEACE & LOVEを踏まえて、ぎの整体院としての考え方を整理します。
4-1. アイシングは「必須」では無く、選択肢の一つ
アイシングは、痛みを一時的に和らげたり、腫れを抑える目的では今でも使われています。
ただし、複数の研究をまとめた論文ではアイシングが長期的な機能回復をどの程度高めるかについて、まだ十分に結論が出ていないとされています。
そのため、ぎの整体院としては次のように考えています。
-
強い痛みで眠れない、一時的に痛みを緩和したい
→ 短時間のアイシングで痛みを和らげる「応急処置」として使うことは選択肢の一つ -
日常的に何度も長時間アイシングを繰り返す
→ 血流を下げ過ぎて、回復を遅らせる可能性があるため慎重に考えたい
実際の医療現場でも、「必ずアイシング」「絶対にアイシング禁止」というどちらか一方に決着が付いていません。
状況に応じた使い分けが重視されています。
4-2. 「痛みが出る手前まで動かす」とPEACE & LOVE
ぎの整体院では、「痛みが出る手前まで安全に動かす」ことをセルフケアの軸にしています。
これは、PEACE & LOVEの中で強調されている、次のポイントと重なります。
-
Load(適切な負荷):何もしない安静では無く、組織にとって安全な範囲で負荷をかける
-
Vascularisation(血流):軽い運動で血流を促し、回復に必要な酸素や栄養を届ける
-
Exercise(運動):関節や筋肉だけでなく、脳と神経に「安全な動き」を再学習させる
次の改善効果が期待できます。
・痛みを我慢せずに動かすことで、筋肉や関節の過度なこわばりが少しずつほどけてくる。
・「この動きは大丈夫だった」という経験が増えることで、脳が過剰にブレーキをかけにくくなる。
・結果として、動かせる範囲や、体重を乗せられる範囲が少しずつ広がっていく。
「痛くなるまで頑張って動かす」のではありません。
「痛く無い動きの経験を積み重ねて、徐々に広げていく」というイメージです。
「痛みが出る手前まで動かす」という考え方は、PEACE & LOVE で言われている「早期から安全な範囲で動かす」こととも一致します。
実際のリハビリでは、このようにからだの使い方と感覚入力を整えていく運動療法が重要になります。
詳しく知りたい方は
運動療法(からだの使い方・感覚入力を整える)
も参考にしてみて下さい。
4-3. セルフケアの基本的な考え方
痛みが強い等なら、必ず病院での検査を受けて下さい。
病院で「重いケガでは無い」と確認出来たうえでセルフケアを行う場合には、次の考え方を大切にしてください。
-
「冷やすか温めるか」だけにとらわれず、「今の状態で何を優先するか」を整理する
-
痛みが強い時期は、長時間の強いアイシングよりも、「保護しながら、痛みが出ない範囲で動かす」ことを意識する
-
ストレッチや筋トレは、「痛みが完全に落ち着いたあと」の再発予防として使う
-
不安な場合は、自己判断で無理をせず、早めに専門家に相談する
5. まとめ:RICEだけに頼らず、「安全に動かす」視点を取り入れる
最後に、このページの内容をまとめます。
-
RICEは「安静・冷却・圧迫・挙上」による古くからの応急処置の考え方
-
近年は、POLICE・PEACE & LOVEが提案され、「完全な安静」から「最適な負荷へ」と考え方がシフトしている
-
アイシングは痛みを一時的に和らげる手段としては有用
-
アイシングは長期的な回復を必ず高めるとは限らず、使い方には注意が必要
-
セルフケアでは、「我慢して動かす・冷やす」では無く、「悪化させないように保護しながら、安全な範囲で少しずつ動かす」視点を取り入れることが大切
RICE・POLICE・PEACE & LOVEという言葉だけを覚える必要はありません。
大事なのは、「冷やすか温めるか」だけにこだわらない。
「今の状態で、どこまで動かすのが安全で、どこから先が負担になり過ぎるのか」を整理しながらケアしていくことです。
この記事に関する関連記事
- オスグッドでも練習は休むべき?続けながら改善を目指す考え方
- 高槻でオスグッドにお悩みの親御さんへ|病院との違いと整体でできること
- オスグッド病は成長痛じゃない|原因・セルフチェック・改善法を専門整体が解説
- 小脳から考える運動療法|痛み・しびれを「危険予測」とボディマップから改善
- なぜ運動療法で痛みが悪化する人がいるのか?
- 反対側を動かすと痛みが減る理由 ― PMRF・小脳・下行性疼痛抑制系の連携
- 小脳と前庭機能でバランスを整える|ふらつき・慢性痛を神経学から解説
- 痛みの根本原因を解明!感覚のエラーが引き起こす不調と自分で整える視点
- 「ボーア効果」酸素運搬のすごい仕組み
- 姿勢とバランスを支える前庭脊髄反射(VSR)とは?
- 頭が動いても視界はブレない!「前庭動眼反射(VOR)」の仕組みと整え方
- 目を閉じてもフラフラしない秘密!三半規管がバランスをとる仕組みを徹底解説
- 脳が自分で痛みを抑える? 下行性疼痛抑制系の仕組みをやさしく解説
- 同側の肩こり・腰痛・膝痛…身体の片側に症状が偏る理由はPMRF(橋・延髄網様体)
- 朝の一歩目が激痛!そのかかとの痛み、足底筋膜炎じゃない?筋肉やストレッチで改善しない本当の原因
- 歩くとふらつく原因は筋力ではなく神経のズレ?
- ゴルフの捻転不足の原因は胸椎と股関節だった!?腰を回すときの本当の動きとは
- 「腰痛の原因」腰が回らない本当の理由は胸椎と股関節にあった!
- 腰痛の原因!? 知っておきたい腸腰筋のメカニズムと神経ストレッチ(大腿神経)
- 股関節痛改善は筋肉のストレッチより神経ストレッチ(大腿神経)
- 手根管症候群を原因から改善する神経ストレッチ(正中神経)
- 手のひらのしびれ・痛みを改善する神経ストレッチ(正中神経)
- 肩・首痛い時に効果的な神経ストレッチ(副神経)
- 手のしびれ・痛み(橈骨神経麻痺)改善の神経ストレッチ(橈骨神経・後骨間神経)
- 【自律神経失調症】自律神経とストレスの関係
- 手のしびれ・痛み(ギヨン管症候群)改善の神経ストレッチ(尺骨神経)
- 自律神経失調症への整体の効果:不眠・めまい・倦怠感等
- 小指のしびれ(肘部管症候群)改善の神経ストレッチ(尺骨神経)
- うつ病の人がとる行動をパターン別に説明
- 前腕外側の痛み・しびれ改善の神経ストレッチ(筋皮・前腕外側皮神経)
- 腓骨神経麻痺の症状・原因と神経ストレッチ(総腓骨神経)
- 自律神経失調症による発熱の原因と対処法
- うつ病の種類を原因・症状・病型ごとにわかりやすく説明
- うつ病で身体の痛みが起こる理由をわかりやすく解説
- 【外側大腿皮神経痛の改善方法】太もも外側の痛み・しびれ改善に効果的な外側大腿皮神経ストレッチ
- 坐骨神経痛の原因を深く解説
- 椎間板ヘルニアの痛み・しびれの原因は脳・神経にある
- 椎間板ヘルニアには種類がある?椎間板ヘルニアの種類を解説
- 催眠療法(ヒプノセラピー)での催眠状態ってどんな状態?
- 運動療法で痛み・しびれを「神経から」改善するコツ
- 腰の痛みと姿勢の悪さは関係無し 腰の痛み改善に大事な考え方
- ツライ腰痛も簡単な腰痛体操で症状軽減
- 腰痛の原因は脳にある?脳神経学の視点から腰痛を読み解く
- 催眠療法(ヒプノセラピー)の受け方のコツは安心と信頼
- 治らない野球肩改善の神経ストレッチとクワドリラテラルスペース(腋窩神経)
- 大人の起立性調節障害の症状や仕事への向き合い方
- 潜在意識・顕在意識と催眠療法(ヒプノセラピー)の関係
- 催眠療法(ヒプノセラピー)がトラウマ解消に効果的
- 催眠療法(ヒプノセラピー)は怪しい?催眠療法の疑問を解消
- テニス肘を放置して悪化すると手術が必要になることも!
- テニス肘の原因を解説!日常生活で出来る予防
- 坐骨神経痛の症状は主に4種類
- テニス肘の原因を筋肉・動作等からわかりやすく説明
- グロインペイン症候群を改善する神経ストレッチ(閉鎖神経)
- ロキソニンが効かない腰痛の改善方法
- 膝内側の痛み(ハンター管症候群)の改善に神経ストレッチ(伏在神経)
- プラシーボ(プラセボ)効果とは?/整体の効果は思い込み?
- めまいの種類/回転性・末梢性・メニエル病のめまいって何?
- 神経ストレッチの目的と役割|筋肉を伸ばしても変わらない痛みを「神経」から考える
- 慢性痛の原因は脳の記憶!慢性痛の改善方法も紹介
- 三叉神経痛・顔面神経痛の原因と神経ストレッチ(三叉神経)
- アキレス腱炎に効果的な神経ストレッチ(腓腹神経)
- 頚椎症性神経根症の「症状」「「似た症状」「神経根」とは?
- 重症な足底筋膜炎にも効果的な神経ストレッチ(脛骨神経)
- 猫背改善にストレッチ・筋トレより効果的な神経学トレーニング
- 自律神経失調症と脳・神経学の関係
- ペンフィールドのホムンクルスとは?脳の身体地図とボディマップの関係
- 脳は未来の身体を予測して動く|ボディマッピングと危険回避の仕組み
- オスグッドはなぜ再発する?原因と予防の考え方
- 脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由
- 整体後の好転反応とは?
- 横隔膜の硬さと自律神経・首の関係
- 足底筋膜炎と足底腱膜炎の違い
- 腰や首の牽引療法は効果がない
- 「整体は意味ない」と言われる理由
- シーバー病が改善しても身長伸びる!
- 気象病・天気痛の原因と改善する考え方
- ベアフットシューズの効果で様々な症状を改善
- 重症オスグッドでも安心して出来るストレッチ|痛み無く動かす改善法
- 産後の骨盤矯正は本当に必要?
- 骨盤矯正ダイエットで痩せるのは本当?
- 「椎間板が潰れている」「背骨のスキマ狭い」とは?
- 椎間板ヘルニアは手術後64%再発する
- 椎間板ヘルニアがレントゲンでわからない理由
- オスグッドは身長に影響する?成長期の不安を整理する
- オスグッド病と他のスポーツ障害との見分け方
- 骨盤・背骨等の身体の歪みは気にしなくて大丈夫
- 側弯症改善に三半規管トレーニング
- オスグッドで多い質問
- オスグッド病と成長痛の違い|年齢・痛み方・レントゲン所見で簡単チェック
- 坐骨神経痛はマッサージでは改善しない
- 坐骨神経痛の施術は整骨院でも可能?
- 坐骨神経痛は病名ではない!?
- 坐骨神経痛の痛み・しびれ部分が人により違う理由とは?
- 腰痛がマッサージで良くならない理由|脳と神経から考える慢性腰痛のメカニズム
- オスグッド改善にはストレッチ不要!痛みがある時に避けたい理由
- オスグッドにアイシングはNG?痛みがある時期のセルフケアのポイント





お電話ありがとうございます、
大阪・高槻スポーツ整体 ぎの整体院でございます。