脳には「身体のどの部分をどこで動かし、どこで感じ取っているのか」を示す身体対応の地図があります。
これはカナダの脳神経外科医ワイルダー・ペンフィールドが、手術中に脳の部位に電気刺激を与えて反応を詳細に記録することで作り上げました。
その研究成果は、
-
脳の断面に身体部位を対応させた地図(脳対応図)
-
人型イメージとして描かれた図(ホムンクルス)
この2種類の図で表現されています。
人型ホムンクルスは、手・顔・舌が極端に大きく描かれている独特の姿が特徴です。
これは「脳内でその部位がどれだけ広い領域を使っているか」を視覚的に示したものです。
この記事では、このホムンクルスをきっかけに
・脳が身体をどう認識するのか
・なぜ痛みや不調が起こるのか
・整体やセルフケアへの応用
をわかりやすく解説していきます。
1. 脳の運動野と感覚野 ― 身体を動かし感じる場所
脳は場所ごとに担当する役割が異なります。
これを脳の機能局在といいます。
脳の中央にある溝(中心溝)を境に次のように分かれています。
・中心溝の前(前頭葉)
→ 運動野(身体を動かす指令を出す場所)
・中心溝の後ろ(頭頂葉)
→ 感覚野(皮膚・筋肉・関節などからの感覚を受け取る場所)
ペンフィールドはこの領域に電気刺激を加え、
-
どこを刺激するとどの部位が動くのか
-
どこで感覚が生じるのか
を詳細に調べました。
そこから、脳のどの部位が身体のどの部分を担当しているのかを表す 脳の身体地図(脳対応図) がつくられました。
この対応表を人型に置き換えたものがホムンクルスです。
2. ペンフィールドのホムンクルス ― 描き方は違うが内容は同じ
ペンフィールドのホムンクルスには2タイプあります。
①脳の断面にそのまま身体を対応させた図(脳対応図)
②人型として表現されたホムンクルス(視覚的に理解しやすい図)
両者は描き方が違うだけで、示している内容は同じです。
脳の占有面積が大きい部位は、人型でも大きく描かれる
手・舌・顔などの繊細な動作や感覚を必要とする部位は、脳内で広い領域を占めています。
そのため、ホムンクルスでも 手・舌・顔が巨大に描かれて下記の特徴があります。
-
繊細な動きが必要
-
感覚の密度が非常に高い
逆に、肩・腰・背中は小さく描かれます。
これは、脳内での感覚の密度が低く狭い領域となるからです。
3. ボディマップとは?脳が作るもう一つの身体の地図
ホムンクルスは脳の構造を示す固定された地図”です、脳にはもう一つの重要な地図があります。
それが ボディマップ(Body Map) です。
ボディマップとは?
ボディマップとは、身体から得られるさまざまな情報を脳がまとめあげて作る
「自分の身体の位置・動き・状態」を表す地図 。
含まれる主な情報は以下のとおりです。
-
皮膚の感覚(触覚・圧・温度)
-
関節の角度(位置覚)
-
筋肉の張り具合(深部感覚)
-
身体がどの方向へ動いているか(運動覚)
-
内臓の状態(内受容感覚)
つまり、身体の感覚そのものがボディマップの材料 です。
ホムンクルスとボディマップの違い
| 種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| ホムンクルス | 脳の構造に基づいた身体地図 | 固定された設計図(変化しない) |
| ボディマップ | 感覚情報で常に更新される身体地図 | 日常生活で変化する/ぼやける/歪む |
ホムンクルスは構造、ボディマップは現在の身体の状態を映す地図です。
4. ボディマップが不正確になると起こる症状
ボディマップが不正確になる主な原因は次のとおりです。
-
ケガをして正確な情報が送れない
-
同じ姿勢ばかりで使わない部位が増える
-
ストレスで感覚処理が乱れる
ボディマップがぼやけると、脳はこう考えます。
「この部位がどうなっているのか正確にわからない。危険かもしれない」
その結果、脳は身体を守るための反応を出します。
脳が「危険」と判断して出す防御反応
脳が危険と判断した下記の身体を守る反応を出します。
-
痛み・しびれ・違和感(動かさせないため)
-
筋緊張・こり(固定して守る)
-
可動域制限(動きを止める)
-
筋力低下(筋肉を使わせない)
不調と呼ばれるものは、すべて 脳が身体を守るための出力 の一種です。
より詳しく知りたい方はこちら
脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由
5. セルフケアへの応用 ― 手や舌で脳を刺激して動きを改善する
ホムンクルスで大きく描かれている部位は、脳へ刺激が入りやすい部位です。
その代表が 手・舌・顔。
これらを使うとボディマップに刺激が入りやすく、痛みや可動域の改善につながることがあります。
例:舌の動きで首の回旋が変わる
首の動きを舌を使って改善するか試してみましょう。
① 首を左右に軽く回し、可動域を確認
② 右を向く時 → 舌を右頬へ押し付ける
③ 左を向く時 → 舌を左頬へ押し付ける
④ この動きと首の回旋を5回ほど連動
⑤ 舌を使わずに首を回し、最初と比べて変化を確認
舌からの入力は脳内で処理され、近くに位置する首の領域を刺激しやすいです。
その結果、首の動きが改善します。
手も同様です。
指先からの正確な刺激は肩や上半身にも影響を与える可能性があります。
ただし、これはすべての人に当てはまりません。
症状との関連部位や、効果の出やすい部位は人により異なります。
試してみて
・痛みの軽減
・可動域の拡大
等の効果が出れば、あなたに合っていると判断出来るので続けていきましょう。
6. 神経学の考え方 ―脳を整えると根本改善が起こる
一般的な整体は「身体側の問題(筋肉や関節)」を中心に見ますが、神経学的には 脳の三つの役割 に着目します。
脳の3つの役割
脳の役割の最優先は身体を守ることです。
そのため、必要に応じて痛みや筋緊張の防御反応を出します。
脳はつねに、
① 身体から感覚情報が入る(入力)
② 危険か安全かを判断する(解釈)
③ 痛み・筋緊張として反応する(出力)
という流れで身体をコントロールしています。
痛みやこりは出力の結果でしかありません。
本当の原因は 入力された情報の質・精度 にあります。
ボディマップを整える意味
ボディマップを整える意味は下記です。
-
正確な身体情報が脳に届く
-
脳が安心し「安全」と判断する
-
不必要な防御反応(痛み・緊張)が止まる
結果として痛みが自然に落ち着くのです。
より詳しく知りたい方はこちら
神経学トレーニングとは?
7. まとめ ― ホムンクルスを知ると身体の不調が読み解ける
-
ホムンクルスは脳の「身体対応の地図」を描いたもの
-
手・舌・顔が大きいのは、繊細で脳の占有面積が大きいため
-
肩・腰などは感覚が鈍く、ボディマップもぼやけやすい
-
ボディマップは日常のクセやケガで歪み、痛みの原因になる
-
大きく描かれた部位はセルフケアに有効
-
神経学的整体は脳がどう判断しているかから整えていくアプローチ
ホムンクルスを理解すると、
「なぜ不調が起きるのか」
「どこから刺激すれば改善しやすいのか」
が見えてきます。
あなたが日々行うセルフケアの効果を高めるヒントにしてください。
この記事に関する関連記事
- なぜ運動療法で痛みが悪化する人がいるのか?
- 反対側を動かすと痛みが減る理由 ― PMRF・小脳・下行性疼痛抑制系の連携
- 身体のバランスとスムーズな動きを小脳と前庭機能の連携から解説
- 痛みの根本原因を解明!感覚のエラーが引き起こす不調と自分で改善する方法
- 「ボーア効果」酸素運搬のすごい仕組み
- 姿勢を保つヒミツは前庭脊髄反射(VSR)
- 頭が動いても視界はブレない!「前庭動眼反射(VOR)」の仕組みと役割
- 目を閉じてもフラフラしない秘密!三半規管がバランスをとる仕組みを徹底解説
- 脳が自分で痛みを抑える? 下行性疼痛抑制系の仕組みをやさしく解説
- 同側の肩こり・腰痛・膝痛…身体の片側に症状が偏る理由はPMRF(橋・延髄網様体)
- 朝の一歩目が激痛!そのかかとの痛み、足底筋膜炎じゃない?筋肉やストレッチで改善しない本当の原因
- 歩くとふらつく原因は筋力ではなく“神経のズレ”?
- ゴルフの捻転不足の原因は胸椎と股関節だった!?腰を回すときの本当の動きとは
- 「腰痛の原因」腰が回らない本当の理由は胸椎と股関節にあった!
- 腰痛の原因!? 知っておきたい腸腰筋のメカニズムと神経ストレッチ(大腿神経)
- 股関節痛改善は筋肉のストレッチより神経ストレッチ(大腿神経)
- 手根管症候群を原因から改善する神経ストレッチ(正中神経)
- 手のひらのしびれ・痛みを改善する神経ストレッチ(正中神経)
- 肩・首痛い時に効果的な神経ストレッチ(副神経)
- 手のしびれ・痛み(橈骨神経麻痺)改善の神経ストレッチ(橈骨神経・後骨間神経)
- 【自律神経失調症】自律神経とストレスの関係
- 手のしびれ・痛み(ギヨン管症候群)改善の神経ストレッチ(尺骨神経)
- 自律神経失調症への整体の効果:不眠・めまい・倦怠感等
- 小指のしびれ(肘部管症候群)改善の神経ストレッチ(尺骨神経)
- うつ病の人がとる行動をパターン別に説明
- 前腕外側の痛み・しびれ改善の神経ストレッチ(筋皮・前腕外側皮神経)
- 腓骨神経麻痺の症状・原因と神経ストレッチ(総腓骨神経)
- 自律神経失調症による発熱の原因と対処法
- うつ病の種類を原因・症状・病型ごとにわかりやすく説明
- うつ病で身体の痛みが起こる理由をわかりやすく解説
- 【外側大腿皮神経痛の改善方法】太もも外側の痛み・しびれ改善に効果的な外側大腿皮神経ストレッチ
- 坐骨神経痛の原因を深く解説
- 椎間板ヘルニアの痛み・しびれの原因は脳・神経にある
- 椎間板ヘルニアには種類がある?椎間板ヘルニアの種類を解説
- 催眠療法(ヒプノセラピー)での催眠状態ってどんな状態?
- 運動療法で痛み・しびれを「神経から」改善するコツ
- 腰の痛みと姿勢の悪さは関係無し 腰の痛み改善に大事な考え方
- ツライ腰痛も簡単な腰痛体操で症状軽減
- 腰痛の原因は脳にある!脳神経学視点から腰痛の原因を解説
- 催眠療法(ヒプノセラピー)の受け方のコツは安心と信頼
- 治らない野球肩改善の神経ストレッチとクワドリラテラルスペース(腋窩神経)
- 大人の起立性調節障害の症状や仕事への向き合い方
- 潜在意識・顕在意識と催眠療法(ヒプノセラピー)の関係
- 催眠療法(ヒプノセラピー)がトラウマ解消に効果的
- 催眠療法(ヒプノセラピー)は怪しい?催眠療法の疑問を解消
- テニス肘を放置して悪化すると手術が必要になることも!
- テニス肘の原因を解説!日常生活で出来る予防
- 坐骨神経痛の症状は主に4種類
- テニス肘の原因を筋肉・動作等からわかりやすく説明
- グロインペイン症候群を改善する神経ストレッチ(閉鎖神経)
- ロキソニンが効かない腰痛の改善方法
- 膝内側の痛み(ハンター管症候群)の改善に神経ストレッチ(伏在神経)
- プラシーボ(プラセボ)効果とは?/整体の効果は思い込み?
- めまいの種類/回転性・末梢性・メニエル病のめまいって何?
- 神経を伸ばす神経ストレッチの目的と役割
- 慢性痛の原因は脳の記憶!慢性痛の改善方法も紹介
- 三叉神経痛・顔面神経痛の原因と神経ストレッチ(三叉神経)
- アキレス腱炎に効果的な神経ストレッチ(腓腹神経)
- 頚椎症性神経根症の「症状」「「似た症状」「神経根」とは?
- 重症な足底筋膜炎にも効果的な神経ストレッチ(脛骨神経)
- 猫背改善にストレッチ・筋トレより効果的な神経学トレーニング
- 自律神経失調症と脳・神経学の関係
- 脳は未来の身体を予測して動く|ボディマッピングと危険回避の仕組み
- オスグッド改善後の再発予防
- 脳が描く身体の地図「ボディマップ」/神経学的整体で痛みを整える理由
- 整体後の好転反応とは?
- 横隔膜の硬さと自律神経・首の関係
- 足底筋膜炎と足底腱膜炎の違い
- 腰や首の牽引療法は効果がない
- 「整体は意味ない」と言われる理由
- シーバー病が改善しても身長伸びる!
- 気象病・天気痛の原因と改善する考え方
- ベアフットシューズの効果で様々な症状を改善
- 重症なオスグッド改善の動かしストレッチ
- 産後の骨盤矯正は本当に必要?
- 骨盤矯正ダイエットで痩せるのは本当?
- 「椎間板が潰れている」「背骨のスキマ狭い」とは?
- 椎間板ヘルニアは手術後64%再発する
- 椎間板ヘルニアがレントゲンでわからない理由
- オスグッド病が改善しても身長伸びる!
- オスグッド病と他のスポーツ障害との見分け方
- 骨盤・背骨等の身体の歪みは気にしなくて大丈夫
- 側弯症改善に三半規管トレーニング
- オスグッドで多い質問
- オスグッドと成長痛の違い
- 坐骨神経痛はマッサージでは改善しない
- 坐骨神経痛の施術は整骨院でも可能?
- 坐骨神経痛は病名ではない!?
- 坐骨神経痛の痛み・しびれ部分が人により違う理由とは?
- 腰痛は揉んでも改善しない
- オスグッド病にストレッチ不要
- オスグッドにアイシングはNG





お電話ありがとうございます、
大阪・高槻スポーツ整体 ぎの整体院でございます。