脳の危険判断と神経から考える
なぜ運動療法で痛みが悪化する人がいるのか?
脳の「危険判断」と神経の仕組みから徹底解説します。
「症状を良くしたくて運動療法を始めたのに、逆に痛みが強くなった…」
「ストレッチや筋トレをすると、その日はしんどくなる」
あなたにも心当たりはありませんか?
一般的には「筋力不足だから」「運動が足りていないから」という説明がされがちです。
しかし、実はそれだけでは説明できない “悪化パターン” が存在します。
本記事で下記を、専門知識を使いながらも分かりやすく解説します。
-
なぜ運動療法で痛み・シビレが悪化する人がいるのか
-
そのとき脳と神経で何が起きているのか
-
安全かつ効果的に運動療法を行うためのコツ
※「運動療法をどう工夫すれば改善に向かうか」の具体的なやり方は、
関連記事:「運動療法で痛み・シビレを脳・神経から改善するコツ」 もあわせてご覧ください。
1. 痛み・シビレは「壊れたサイン」ではなく脳の防御反応
多くの方は、
-
「痛い=どこかが壊れている」
-
「シビレる=神経が傷んでいる」
とイメージされます。
神経学的な考え方では、痛みやシビレ等の症状は、これ以上動かすと危険という脳からの防御反応としてとらえます。
-
痛み・シビレ→ その部分をあまり使わせないためのブレーキ
-
筋肉の硬さ・張り→ 今の身体でバランスを取りやすい姿勢に固定するため
-
可動域制限→ 安全と判断した範囲だけ動かすため
-
筋力低下→ 筋肉を休ませるため
脳は「今の状態でこれ以上使うと危険だ」と判断すると、あえて不調を出して身体を守ろうとします。
この「防御反応」という視点がないまま運動を頑張りすぎると、運動療法で悪化するパターンにはまりやすくなります。
2. 脳は「入力 → 解釈 → 出力」で身体を守る
脳は、身体のあちこちから届く情報をまとめて処理しています。
入力
・筋肉・関節・皮膚・内臓からの身体情報
・目・耳などの感覚情報
・三半規管などのバランス情報
・不安・緊張などの心理状
解釈
・情報を総合して「安全or危険」を判断す
出力
・危険と判断すれば、痛み・筋緊張・シビレ・可動域制限などの反応を出す
という流れで、身体を守っています。
2-1. 画びょうの例で考えると
手に画びょうが刺さった場面をイメージしてみてください。
-
手の感覚神経が「鋭い刺激が入った」と脳に入力
-
脳が「これは危険」と解釈
-
痛みを出し、手を引っ込めさせるよう出力
という流れです。
ここで大事なのは、どんな情報が入力され、脳がそれをどう解釈したかで、出力が変わるという点です。
3. 情報の質と解釈が症状を左右する
脳は、
・身体からどんな情報が届いているか(情報の質)
・それをどう判断するか(解釈)
で、防御反応の強さを決めています。
-
正確で、安心できる情報が多い
→ 「安全」と判断しやすい -
あいまいで、イヤな感覚や不安がセットになっている情報が多い
→ 「危険かもしれない」と判断しやすい
ここで影響するのは、感覚だけではありません。
-
身体がどれだけ緊張しているか
-
不安・恐怖がどれくらい強いか
-
「この動きをするとまた痛くなるかも」と感じているか
こうした要素も、最終的な解釈に加わります。
運動療法で悪化しやすい人の多くは、
-
痛みや違和感を我慢しながら動かす
-
「また痛くなるかも」等の不安を抱えたまま動かす
-
「力を抜いて、丁寧に感じる」経験が少ない
といった理由で、脳にとって安心できない情報が積み重なっている状態とも言えます。
4.一般的な運動療法で起こりがちな悪化パターン
4-1.「刺激の入れ方」が脳の危険判断を強めてしまう
運動療法で悪化してしまう人の多くは、運動そのものが悪いのではありません。
刺激の入れ方が今の身体に合っていない状態になっています。
たとえば、こんなやり方です。
-
痛みや違和感をこらえながら回数をこなす
-
「せっかくやるなら」と、最初から大きな可動域や強い負荷を狙う
-
「このくらいならまだ我慢できる」と、軽い違和感を抱えたまま続けてしまう
-
終わったあと症状が強くなっても、同じメニューを続けてしまう
脳からみると、こうした運動は
「どこがどう動いたかよく分からない」+「イヤな感覚とセット」
という悪い情報セットとして記録されやすくなります。
その結果、
-
「この動きをするとまた危険な状態になるかもしれない」と脳が解釈しやすくなる
-
同じ動きをしようとしただけで、先に筋肉が緊張する
-
少しの刺激でも痛み・シビレが強く出やすくなる
といった防御反応の強まりにつながります。
4-2.症状改善の運動療法
本来、症状改善を目的とした運動療法は、
-
脳を安心させる
-
「この動きは安全」と学習させる
ために行うものです。
それが、「頑張る」「我慢する」「たくさん動かす」を優先すると…。
目的とやり方がズレてしまい、悪化パターンに入りやすくなります。
4-3.強度設定の目安―どこまでやれば安全か?
悪化を防ぐうえで大切なのは、「どこまでなら脳が安心できるか」を基準に強度を決めることです。
安静時にほとんど症状無しの場合
-
運動中は「痛み・違和感ゼロ」の範囲で行う
-
「気持ちいい」「ラクに動ける」と感じる範囲だけにとどめる
「少し痛いけど、まあこのくらいなら…」もNGです。
症状が無い範囲だけで完結させることが、脳にとっての安心材料になります。
安静時にもすでに症状が有る場合
-
運動中に、痛み・シビレ・重だるさが強くならない範囲で行う
安静時の症状の有無にかかわらず、終了後に症状がはっきり強くなる。
数時間後〜翌日に、いつもよりしんどくなるといった変化があれば、その運動強度が今のあなたには強すぎるサイン。
そのときは、
-
回数を減らす
-
可動域を小さくする
-
動かすスピードを落とす
などで、刺激量そのものを落とす必要があります。
5.神経学的な運動療法の考え方
筋肉を動かすから感覚を正確に感じるへ
当院で行う神経学的な運動療法では、
-
筋肉を動かすこと = 手段
-
身体の感覚を正確に感じること = 目的
という考え方を大切にしています。
5-1. なぜ「感じること」がそんなに大事なのか?
神経学的には、
- どの方向に動いているか(運動覚)
- 今どの位置にあるか(位置覚)
- どこに重さが乗っているか(圧覚・触覚)
といった情報が多く、正確に脳へ届くほど、脳は今の身体の状態を正確に把握できます。
正確性が増すので「この動きは安全だ」と判断しやすくなります。
たとえば、座ったまま「お尻のどこに体重が乗っているか」に意識を向けてみてください。
それだけで、お尻の感覚がはっきりしてきますよね。
この意識して感じること自体が、神経にとってはとても良いトレーニングです。
6.運動療法で悪化させないための3つのコツ
ここまでお伝えしてきたように、運動療法で大事なのは「たくさん動かすこと」ではなく、
-
脳が「この動きは安全だ」と理解できる
-
そのための感覚情報の入力の質を高める
ことです。
ここでは、セルフケアでも使いやすいように、悪化を防ぎつつ、改善につなげるための3つのコツをまとめます。
コツ①「症状が出ないギリギリ手前」で動かす
「痛みが怖いから」と、まったく違和感のない超安全ゾーンだけで動かしても改善は期待出来ません。
刺激が弱すぎて、脳はもともと安全と知っている範囲を広げてくれません。
これでは、なかなか症状は変わりません。
一方で、明らかに痛み・シビレが強くなる、終わったあとや翌日に悪化するところまで頑張るのもNG。
その動きが「危険な動き」として脳に刻まれてしまいます。
その間にあるのが、症状が出ないギリギリ安全な範囲。
-
動かしている最中に「痛い」「イヤだ」と感じない
-
終わってからも症状が明らかに増えない
この範囲を少しずつ探りながら動かしていきます。
そして、症状が出ないギリギリ安全な範囲までの動きを繰り返すことがポイントです。
こうして「安心してできる動き」の情報入力が、少しずつ脳に積み重なっていきます。
この情報が増えれば増えるほど、脳は危険な動きではなく安心してできる動きとして解釈するようになります。
その結果として、「安全な範囲」そのものが、少しずつ広がります。
これが、悪化させずに可動域を広げていく基本の考え方です。
コツ② どれだけ感じられたかを大事にする
運動療法というと、回数、重さ等の負荷量に意識が向きがちです。
しかし、神経学的な視点では、1回の動きの感じ方の質のほうがずっと重要です。
動かしているあいだ、次のようなポイントに意識を向けてみてください。
-
今、どの方向に動いているか
-
動きの途中で一番重く感じる位置はどこか
-
左右で感覚の違いがないか
-
不要なところ(肩・顔・首など)に力が入っていないか
こうした「どの方向に・どの位置で・どんな重さで動いているか」という情報を多く・正確に脳へ届けることが重要です。
そうすると、脳は今の身体の状態を正確に把握できるようになります。
正確に把握できるからこそ、「この動きは安全だ」と判断しやすくなるわけです。
ですので、
-
回数は少なくてもいいので、1回1回を丁寧に
-
「雑に10回」より「しっかり感じて3〜5回」
という意識で行ってみてください。
コツ③ 終了後「チェック」を必ず入れる
どんなに良さそうな運動でも、あなたの身体にとって今どうなのかは、実際にやってみないと分かりません。
そのため、運動のあとに必ずチェックを入れます。
-
動く範囲はどうか(少しでもスムーズになったか)
-
痛み・重だるさが増えていないか
-
動かす前と比べて、「楽」か「同じ」か「しんどい」か
ここでの目安はシンプルです。
-
その場で「楽」「動かしやすい」方向に変わる
→ 今のあなたに合っている運動 -
終わるたびに「重くなる・痛くなる」方向へ変化する
→ 今のあなたには強すぎる or やり方が合っていない運動
このとき大事なのは、「合わない運動を、根性で続けない」ということです。
合っている運動は、少なくともその場で
-
ほんの少しでも「軽い」
-
ほんの少しでも「動きやすい」
というプラスの変化が出ます。
その「小さなプラス」を積み重ねていくことが、悪化させずに改善へ向かう運動療法のコツになります。
7. 運動療法で悪化するはやり方を見直すサイン
8.医療機関の受診が最優先となるケース
次のような場合は、運動療法よりも まず病院での検査が最優先です。
-
強い痛みが突然出た
-
安静にしていても夜間に強い痛みが続く
-
足に急に力が入らない・排尿排便の異常がある
-
がん・感染症・骨折などの既往があり、原因不明の強い痛みが長く続く
このようなケースでは、脳や神経の危険判断だけでは説明できない病気が隠れている可能性があります。
「病院で問題がない」と確認後に、神経学的な運動療法を検討されると安心です。
9. まとめ―悪化する運動療法から「改善に向かう運動療法」へ
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