反対側を動かすと痛みが減る理由 ― PMRF・小脳・下行性疼痛抑制系

あなたの脳には、「痛みを自分で抑える仕組み」があるのを知っていますか?
私たちが意識して動かしているのは脳のわずか10%。

残りの90%は無意識の神経システムが身体を支え、バランスを保ち、痛みをコントロールしています。

反対側を動かすだけで身体が変わる理由は、この無意識の90%にあります。

なぜ、動かしていない側の筋肉や痛みが変化するのか?
そのカギは、脳の中にあるPMRF(橋・延髄網様体)と、
痛みを抑える神経回路である下行性疼痛抑制系の働きです。

今回は、脳と神経の仕組みをわかりやすく解説します。
最後まで読むと、「反対側を動かすだけで痛みが軽くなる理由」がはっきり理解できます。

1. 脳と身体はクロスして繋がる

痛み

まず基本の仕組みを見てみましょう。
脳と身体は、左右が交差して働く構造(クロス構造)になっています。

  • 左脳 右の身体を動かす
  • 右脳 左の身体を動かす

たとえば右手を動かすときに働くのは左脳。
感覚も同じで、右手の痛みは左脳、左手の感覚は右脳で処理されています。

脳と身体は「左右でクロスして支え合っている」。
これが神経システムの基本構造です。

2. 脳の信号は「対側」「同側」の2ルート

脳 同側90%

脳からの信号は、実は2種類のルートを通っています。

経路

方向

割合

主な働き

意識レベル

対側ルート
(皮質脊髄路)

反対側

10

細かい動きや意識的な操作

意識的

同側ルート
PMRFなど脳幹経由)

同じ側

90

姿勢・バランス・痛みの調整

無意識


10
%:意識的な神経(反対側を動かす)
ペンを持つ・ボタンを留めるなど、細かい動きを担当。

 90%:無意識の神経(同じ側を整える)
姿勢を支えたり、呼吸・筋緊張・痛みを調整したりする役割を持っています。

この様に意識して動かしているのはたった10%。
残りの90%は、無意識のうちに身体を守ってくれているのです。

3. 脳幹と中脳 ― 無意識の司令塔

脳幹

脳の中心には、意識とは関係なく身体をコントロールしている無意識の司令塔があります。
それが、脳幹です。

脳幹は「中脳」「橋」「延髄」の3つの部位で構成され、
呼吸・心拍・姿勢・痛みのコントロールといった、
生命維持に欠かせない働きを担っています。

部位

主な働き

中脳

痛みのブレーキ、目や注意のコントロール

橋(きょう)

姿勢・バランスの調整

延髄

呼吸や心拍など生命維持機能を管理

中脳の中央には、中脳水道と呼ばれる細い通路があります。

中脳水道は脳の中を流れる脳脊髄液の通り道。
周囲には神経細胞が密集した「中脳水道周囲灰白質(PAG)」があります。

PAGは、痛みを抑えるスイッチの役割を果たしています。
痛みを感じたとき、脳はPAGに信号を送ります。
そこから下位のPMRF(橋・延髄網様体)へ「痛みを止めろ」という指令を出します。

PMRFはその命令を受けて、脊髄レベルで痛み信号をブロックします。
この流れが、脳が自ら痛みを抑えるメカニズム(下行性疼痛抑制系)の中心となっています。

PAGはスイッチ、PMRFは実行部隊。
2つが連携することで、脳は自分の力で痛みをコントロール出来るのです。

※用語補足
網様体(もうようたい):脳幹内の神経ネットワーク。姿勢・自律神経を調整。
灰白質(かいはくしつ):神経細胞の集まり。中脳のPAG痛み抑制のスイッチ

4. 痛みを抑える仕組み「下行性疼痛抑制系」

脳には、痛みを上から抑える神経ルートがあります。
それが「下行性疼痛抑制系(かこうせい・とうつう・よくせいけい)」です。

この回路は、脳が「もう危険ではない」と判断したときに作動し、
脊髄レベルで痛み信号をブロックします。

順番

働く場所

役割

前頭前野・前帯状皮質

「安心できる」と判断

中脳(PAG

痛みを抑えるスイッチを入れる

PMRF(橋・延髄網様体)

スイッチを受け取り、脊髄へ痛みストップ信号を送る

安心や落ち着きが生まれると、PAGPMRFが連携して痛みを抑える。
これが脳に備わった「天然の痛みブレーキ」です。

前頭前野と前帯状皮質 ― 脳が「安心」を判断

前頭前野(Prefrontal Cortex)

前頭前野は、おでこのすぐ奥に位置する脳の前方領域です。
ここは「理性的に考える・落ち着いて判断する・安心を感じる」などの働きを担っています。
この部分が活発になると、脳は「もう危険ではない」と判断し、
痛みを抑える回路に指令を出しやすくなります。

💡 安心・冷静さを生む“痛みコントロールの司令室”

前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex:ACC)

前帯状皮質は、脳の真ん中を縦に走る“帯のような構造”で、
前頭前野のすぐ内側(脳の中心に近い部分)に位置します。

この領域は、感情や注意、そして「痛みのつらさ(痛みの情動)」を処理する場所です。
つまり、痛みそのものよりも「痛みをどう感じるか」「どれくらい苦しいか」を決めている部分です。

前帯状皮質が落ち着くと、「痛み=危険」という認識が緩み、
前頭前野と協力して痛み抑制の回路(PAG → PMRF → 脊髄)を作動させます。

💡 痛みの“つらさ”を減らす心のブレーキ。
感情と痛みをつなぐ中継点が、前帯状皮質です。

中脳とPMRFの連携 ― 痛みブレーキの実行部隊

前頭前野と前帯状皮質が「もう大丈夫」と判断すると、
その信号は中脳にある**PAG(中脳水道周囲灰白質)**へ送られます。

PAGが痛みを抑えるスイッチを入れると、
橋と延髄にある**PMRF(橋・延髄網様体)**がその命令を受け取り、
脊髄に「痛み信号を止めろ」という指令を伝えます。

この一連の流れにより、
脳から脊髄へと“痛みブレーキ”がかかり、
痛みの伝達が弱まります。

🧠 前頭前野・前帯状皮質 → PAG → PMRF → 脊髄
このルートが「下行性疼痛抑制系」と呼ばれる、痛みを抑える神経ネットワークです。

5. 小脳とPMRFのチーム ― 動きと痛みを同時に整える

小脳は、「動きを監視し、ズレを修正する監督」のような役割を持っています。
脳が「動け」と命令を出すと、同時にそのコピーが小脳に送られます。
コピーと実際の動きと照らし合わせて誤差がないかをチェック。

  • 小脳がズレを検出 大脳へ修正指令を返す
  • PMRFが筋肉の力や姿勢を微調整 バランスを維持

この2つの連携により、スムーズで無理のない動きが実現します。
結果として、余計な力みや負担が減り、痛みを感じにくい身体になります。

小脳が動きの精度を、PMRF安定と支えを担当。

6. PMRFは同側を整えるスイッチ

PMRFの特徴は、脳の中央にあるのに同じ側(同側)の身体を整えること。

たとえば左を動かすと:

  1. 感覚が右脳に届く(反対側で処理)
  2. 右脳が左PMRFに信号を送る
  3. PMRFが働き、左の筋肉・交感神経・痛みを整える

脳とPMRFは左右でクロスしながら、同側の身体を調整している。

7. なぜ反対側を動かすと良いのか?

反対側の動きが90%の無意識ルートを介して痛みを抑える

痛みのある側を無理に動かすと、脳は「危険」と感じて緊張を高めます。
しかし反対側を動かすと、脳は安全な動きとして認識し、PMRFが自然に働くのです。

ここで、右手が痛い人が「左手を動かす」ときの脳の流れを見てみましょう。

Step 1:左手を動かそうとする 右脳が働く(10%の意識ルート)
右脳が皮質脊髄路(10%の意識的経路)を使って、左手に「動け」と命令します。

Step 2:左手の感覚が右脳に戻る
動いた左手から感覚情報が右脳に戻り、「安全に動けた」と脳が判断。

Step 3:右脳 PMRFへ信号が送られる(90%の無意識ルート)
右脳が右PMRFを刺激し、下行性疼痛抑制系が作動。
痛みを伝える神経がブロックされ、右手(痛み側)の負担が減ります。

反対側の動きが、痛み側の痛みブレーキを起動させる。
これが、脳の神経構造で説明できる「反対側を動かすと痛みが減る理由」です。

8. まとめ ― 脳の両側ネットワークが身体を整える

  • 脳の信号は 対側10%(意識)+同側90%(無意識)
  • PMRFPAGが連携して痛みを抑える「下行性疼痛抑制系」を作動
  • 小脳とPMRFが協力し、動きと姿勢を同時に整える
  • 反対側を動かすことで、PMRFが働き、痛み信号が抑えられる

🧠 痛みを変える鍵は、筋肉ではなく脳の働き。
反対側の動きが、あなたの無意識90%の力を呼び覚まします。

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