
「右肩と右足が痛い…、
どうしていつも身体の同じ側にばかり出るんだろう?」
「きっと、無意識のうちに片側ばかり使い過ぎているから」
「筋肉の付き方に左右差があるから」
これらはよく言われる原因ですし、もちろん一因ではあるでしょう。
でも、“本当の黒幕”が、身体の使い方や筋肉の付き方の問題ではなかったとしたら…?
脳の中には、痛みの感じ方を調整する「痛みの抑制システム」等の機能があります。
この脳の働きが、身体の“片側”にだけ症状が現れることに深く関わっています。
今回は「脳神経学」という新しい視点から、あなたの「いつも同じ側だけに出る症状」の謎に迫ります。
専門的な内容ですが、出来るだけ分かりやすく説明します。
「新しい視点」が、あなたを悩ませてきた症状改善に向けた突破口になるかもしれませんよ。
生命維持に重要な網様体

身体の同じ側(右脳の不調なら右半身)に症状が出るケースは脳の中でも特に「脳幹」にある「網様体(もうようたい)」が深く関わっています。
この構造が網状に見えることから「網様体」と呼ばれます。
・覚醒・意識レベルの調整
・筋緊張の制御
・姿勢・運動の準備・調整
・感覚入力のフィルタリング(選択的注意)
謎を解くカギは「PMRF(橋・延髄網様体)」

同側に痛み等の症状が起こる網様体の中でも「橋・延髄網様体(きょう・えんずいもうようたい)」です。
英語で Pontomedullary Reticular Formation 、頭文字をとって PMRF(ピーエムアールエフ) とも呼ばれます。Ponto=橋
medulla=延髄
Reticular Formation=網様体
橋・延髄は脳幹にあるため「脳幹網様体」と呼ぶ場合もあります。
「脳幹」と総称で呼ぶか、「橋・延髄」と具体名で呼ぶかの違い。
今回に限っては同じ意味と考えて下さい。
橋・延髄網様体(PMRF)を一言でいうと、「身体のバランスを無意識に調整する縁の下の力持ち」。
脳幹は、生命維持に欠かせない脳の中心部であり神経細胞が網の目の様に密集しています。
橋・延髄網様体(PMRF)は、普段は意識しませんがすごい働き者です。
- 姿勢を保つ司令塔
立つ・座る・歩く時等に、グラグラしないように筋肉の働きを自動で調整しています。
急にバランスを崩しそうになったときに、グッと踏ん張れるのもPMRFのおかげ。 - 筋肉の緊張をコントロール
筋肉がガチガチに緊張しすぎたり、逆に力が入りにくくなったりしないように、絶妙な力加減を調整しています。 - 痛みの感じ方を調整
痛みを感じる神経の通り道にあって、痛みの信号を強めたり弱めたりするフィルターのような役割も持っています。
この様に橋・延髄網様体(PMRF)は意識しなくても、身体の調和を保つために常に働き続けてくれているのです。
「同側に症状が集中」する理由は神経の「直通ルート」
なぜ、橋・延髄網様体(PMRF)の不調が、身体の「同じ側」に症状を引き起こすのでしょうか?
身体には、脳からの指令を伝える神経の道がたくさん通っています。
この道には、大きく分けて「交差ルート」と「直通ルート」の2種類あります。
- 途中で左右が入れ替わる「交差ルート」
代表的なのは、手足を動かす指令を伝える主要な神経(皮質脊髄路)。
延髄で左右が交差します。
右の脳からの指令は左半身へ、左の脳からの指令は右半身へと伝わります。 - 左右が入れ替わらない「直通ルート」
橋・延髄網様体(PMRF)から出て姿勢や筋肉の緊張を調整する神経の道(網様体脊髄路等)は、主にこの「直通ルート」。
右側にある橋・延髄網様体(PMRF)からの指令は右半身へ、左側からの指令は左半身へと伝わります。
この「直通ルート」が、症状が身体の同じ側に出る大きな理由。
橋・延髄網様体(PMRF)の右側に何らかの機能低下が起こると、その影響は主に右半身の
・姿勢の保ちにくさ
・筋肉の緊張の異常
・痛みの感じ方の変化
等に現れたりします。
橋・延髄網様体(PMRF)の不調が引き起こす「同じ側」の症状
橋・延髄網様体(PMRF)の働きが何らかの理由で低下したり、バランスを崩すと身体には様々な不調が現れます。
その不調の多くが橋・延髄網様体(PMRF)の影響を受けている「同じ側」に出やすいのが特徴です。
具体的にどのような症状が現れるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
1. 「痛みのボリューム」が上がりっぱなし? – しつこく続く「同じ側の痛み」
誰でもケガ等により痛みを感じます。
通常はその原因が取り除かれれば痛みは和らいでいきます。
しかし、
「原因は改善されたのに、なぜか同じ側の痛みがずっと続く…」
「ちょっとした刺激でも、以前より強く痛みを感じるようになった」
というケースもあります。
このケースが橋・延髄網様体(PMRF)の「痛みコントロール機能」の不調による可能性が考えられます。
脳の痛み止め機能「下行性疼痛抑制系」

脳や脊髄には、「下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)」と呼ばれる、自分自身で痛みを抑えるための素晴らしい仕組みが備わっています。
橋・延髄網様体(PMRF)の特に延髄部分は、このシステムの中核を担う重要な場所です。
例えるなら、体内の「痛み止めスイッチ本部」。
ここから特別な指令(神経伝達物質などを使った信号)が脊髄に向かって送られます。
すると、ケガや炎症のある場所から上がってくる「痛み信号」が、脊髄のレベルでブロックされたり弱めてくれます。
この下行性疼痛抑制系のおかげで、軽い痛みなら我慢できたり、慢性的な痛みが少し楽になったりするのです。
スイッチの故障で、痛みのボリューム調整が不能に
橋・延髄網様体(PMRF)の「痛み止めスイッチ本部」が機能低下すると、どうなるでしょうか?
下行性疼痛抑制系の指令がうまく出せない状態です。
本来なら抑えられる痛みの信号が脊髄でブロックされずに脳へとダイレクトに伝わってしまいます。
壊れたミキサーのように、痛みの「ボリューム」を下げられず、逆に増幅させてしまうことさえあるのです。
その結果、
- 以前なら気にならなかった程度の軽い刺激(例えば、服がこすれる、少し体をひねる等)でも、強い痛みとして感じてしまう(アロディニアや痛覚過敏と呼ばれる状態に近い)。
- ケガ等が治った後も痛みの記憶だけが残り、しつこい慢性的な痛みが橋・延髄網様体(PMRF)の機能低下側で続いてしまう。
- 同じ側の特定の部位が、常にズキズキしたり、ジンジンしたりする。
橋・延髄網様体(PMRF)の不調は、単に「痛い」というだけでなく、「痛みの感じ方そのもの」を変える可能性があります。
橋・延髄網様体(PMRF)からの痛み抑制の指令も、主に身体の同じ側へと送られます。
そのため、この機能が低下すると、症状も同じ側に偏って現れやすくなります。
2. 「感覚の誤報」でビリビリ、ジンジン? – 「同じ側のしびれ」や感覚の異常
「右足の裏だけ、一枚何かを挟んだような感じがする」
「左手の指先が、理由もないのにピリピリ、ジンジンする…」。
このような「しびれ」や「感覚の異常」も、橋・延髄網様体(PMRF)の機能低下と関係していることがあります。
橋・延髄網様体(PMRF)の「感覚フィルター」と「注意喚起システム」

橋・延髄網様体(PMRF)は、身体から入ってくる大量の感覚情報を脳が効率よく処理できるように「仕分け」するフィルターの役割も担っています。
例えば、今座っている椅子の感触や着ている服が肌に触れる感覚。
普段はほとんど意識していませんよね?
これは、橋・延髄網様体(PMRF)が「生命に重要ではない情報だから意識に上げなくてOK」
と判断し適切に情報を処理してくれているからです。
同時に橋・延髄網様体(PMRF)は、生命維持に必要な情報や、注意を向けるべき重要な感覚に対しては「ここに注目!」と知らせる注意喚起システムとしての働きも持っています。
フィルターの目詰まりや誤作動で感覚が大混乱
橋・延髄網様体(PMRF)の「感覚フィルター」や「注意喚起システム」がうまく機能しなくなると、どうなるでしょうか?
- 感覚フィルターの誤作動(ノイズの増幅)
本来なら無視する情報まで、「重要情報だ!」と誤って判断して脳に伝える。
これが、原因不明の「しびれ・違和感」として橋・延髄網様体(PMRF)の機能が低下したのと同じ側で感じられる。
ラジオのチューニングが合わずにザーザーという雑音ばかり拾ってしまう状態。 - フィルターの目詰まり(必要な情報が届かない)
必要な感覚情報が橋・延髄網様体(PMRF)の段階でうまく中継されず、脳に十分に届かない。
その結果、「触っている感覚が鈍い」「皮膚が一枚厚くなったような感じ」「温かさや冷たさを感じにくい」といった感覚鈍麻(感覚の低下)が、同じ側で起こる。 - 注意喚起のアンバランス
橋・延髄網様体(PMRF)の機能が偏ると、特定の側の感覚に対して過敏になったり、逆に鈍感になったりするなど、左右で感覚の捉え方にアンバランスが生じやすい。
橋・延髄網様体(PMRF)のような脳の中枢部分の機能低下によっても、「感覚情報の処理エラー」として現れることがあります。
3. 「筋肉のアクセルとブレーキ」の不調和 – 「同じ側の筋肉のこわばり」や「力の入りにくさ」
「右側だけ肩がガチガチにこって、何をしてもほぐれない」
「左足にうまく力が入らず、踏ん張りがきかない感じがする」
このような筋肉の緊張のアンバランスや力のコントロールの問題も、橋・延髄網様体(PMRF)の機能と深く関わっています。
橋・延髄網様体(PMRF)による絶妙な「筋肉コントロール」

橋・延髄網様体(PMRF)は、姿勢保持・滑らかな動きのサポートのため無意識に筋肉の緊張具合を常に調整しています。
具体的には、橋・延髄網様体(PMRF)から脊髄に向かって、「網様体脊髄路」と呼ばれる神経の道が伸びており、これが筋肉に対して指令を送っています。
この指令には、大きく分けて2つの役割があります。
- 「アクセル」役
身体の同じ側の脊髄を下り、重力に抗して体を支える筋肉(抗重力筋)を「働け!」と興奮させる指令。
これが働くことで、立ったり座ったり等の姿勢を保つことができる。 - 「ブレーキ」役(および調整役)
体の両側(または同じ側)の脊髄に影響を与え、筋肉の過度な緊張を抑えたり、動きを滑らかにするための細やかな調整を行う指令。
アクセルとブレーキの故障で、筋肉が言うことを聞かない
健康な状態では、橋・延髄網様体(PMRF)が「アクセル」と「ブレーキ(調整)」のバランスを絶妙にコントロールすることで、スムーズに動き、安定した姿勢を保つことができます。
しかし、橋・延髄網様体(PMRF)の機能低下や、経路のバランスが崩れると下記の状態となります。
- ブレーキが効かない(またはアクセルが過剰)
筋肉をリラックスさせる指令がうまく伝わらない。
身体の同じ側の筋肉が必要以上に緊張しっぱなしの状態。
これが、「何をしても取れない頑固なコリ」や「ガチガチのこわばり」。
特に、首や肩、背中、腰など、姿勢を支える筋肉に現れやすい。 - アクセルが踏めない
筋肉を「働かせろ!」という指令が十分に伝わらず、同じ側の筋肉に力が入りにくくなったり、すぐに疲れる。
「足に力が入らず、歩くときに頼りない」「物を持ち上げようとしても、うまく力が入らない」等の症状。
また、筋肉をタイミングよく協調させて動かすことも難しくなり、動きがぎこちなくなったり、バランスを崩しやすくなる。
症状改善にも活かされるPMRF
今回の橋・延髄網様体(PMRF)の働きは、病院のリハビリ分野でも注目されています。
もし、身体の同じ側に続く症状の原因が橋・延髄網様体(PMRF)の機能低下にあると考えられる場合、その働きを活性化させるようなアプローチ(例えば、バランスを鍛える訓練や、体の傾きを感じるセンサーを刺激する運動など)を行うことで、症状の改善が期待できます。
ぎの整体院では、このような脳神経学の視点も取り入れることで、他院では無理な症状でも改善されていきます。
身体の同じ側にばかり症状が出てお悩みの方は、一緒に改善を目指していきましょう。
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