
1.はじめに「ボーア効果」って何?
・朝、目覚めてベッドから起き上がる時
・通勤電車で集中してスマホを見る時
・仕事でプレゼンを頑張る時
・休日にスポーツを楽しむ時。
私たちは意識していませんが、その瞬間に身体は「酸素」というエネルギーを効率的に配給しています。
酸素配給システムは「ボーア効果」のおかげです。
もし、酸素配給が上手くいかなかったら…。
例えば、急な坂道を駆け上がった時、筋肉は大量の酸素を必要とします。
酸素が届かなければ、すぐに息が上がり足が動かなくなってしまうはずです。
逆に、リラックスしている時にまで酸素が過剰に供給されても、それは無駄になってしまいます。
身体は熟練職人のように、その時々の活動レベルに合わせて酸素の供給量を微調整しています。
ボーア効果は、「今、どこにどれだけ酸素が必要か」を判断し、最適なタイミングで酸素を届けるための「自動調整機能」です。
ボーア効果とヘモグロビン

血液中を流れる「ヘモグロビン」は酸素を運ぶ「デリバリーサービス」のドライバーのようなもの。
激しい運動を始めると、筋肉からは
「酸素が足りない!」
というSOS信号(二酸化炭素の増加やpHの低下)が発せられます。
デリバリードライバー(ヘモグロビン)は、信号をキャッチして
「よし、ここが一番の届け先だ!」
と判断し積んだ酸素を惜しみなく筋肉に届けてくれます。
運動後に身体が落ち着くと、今度は肺で新鮮な酸素を効率よく「再充電」し、次の活動に備える。
この賢い連携プレーが身体を常に最高の状態に保ってくれます。
このように、ボーア効果は意識することなく、日々の生活のあらゆる場面で、あなたの身体を力強く支えています。
この先を読み進めれば、
なぜ運動中に息が上がるのか?
なぜ高地で身体が慣れるのか?
また身体がどれほど精巧に出来ているかも理解出来ます。
さあ、身体の「賢い酸素配給システム」の全貌を一緒に見ていきませんか?
2.ヘモグロビンと酸素運搬の基本
赤血球とヘモグロビンって、どんな役割?

血液は、サラサラした「血漿」と、赤血球、白血球、血小板といった「細胞」で出来ています。
この中で酸素を運ぶ一番の働き者が赤血球。
赤血球にはタンパク質のヘモグロビンがぎっしり詰まっています。
ヘモグロビンは、真ん中に鉄の「ヘム」という部分を持っています。
ヘムは酸素とくっついたり離れたりする能力があります。
これが肺で酸素をキャッチして、身体の組織で酸素をリリースする秘密です。
ヘモグロビンはただの運び屋ではありません。
酸素を効率よく必要な時にだけ受け渡し出来るように特別に作られたタンパク質。
ボーア効果はヘモグロビンが正しく働くための複雑な調節の仕組みです。
ボーア効果と酸素解離曲線

酸素解離曲線は酸素飽和度と酸素分圧の関係をグラフにしたものです。
酸素飽和度はヘモグロビンがどれくらい酸素とくっついているかを示します。
酸素分圧は周りの酸素の量を示します。
このグラフは、特徴的なS字の形を描きます。
酸素がたくさんある肺では、ヘモグロビンはほとんど100%酸素とくっつき効率よく酸素を取り込みます。
一方、酸素が少ない組織ではS字のカーブが急になるおかげで、酸素を簡単に手放します。
S字曲線があるからこそ、肺で酸素を「しっかりつかみ」、活動中の組織で「効率よく手放す」と効率的な酸素運搬が可能です。
ボーア効果は、このS字曲線の形を保ちながら位置を左右に動かすことで、状況に合わせた酸素供給を可能にします。
S字曲線自体がボーア効果のすごさを最大限に引き出す土台になっています。
「酸素解離曲線」でわかる酸素循環の仕組み

酸素解離曲線の見方をもう少し説明。
グラフの横軸は血液中の酸素の「濃度(酸素分圧)」。
縦軸は血液中のヘモグロビンが酸素とどれくらい結合しているかを示す「酸素飽和度」。
肺から出て全身に向かう動脈血は、酸素分圧が95mmHgと高く、ヘモグロビンはほとんど酸素と結合した状態(酸素飽和度97%)です。
満タンのガソリンタンクのように、全身にエネルギーを供給する準備ができています。
一方、全身の細胞で酸素を使い果たして心臓に戻る静脈血では、酸素分圧は40mmHgで酸素飽和度も75%に減少しています。
これは、ヘモグロビンがしっかり組織に酸素を「手放した」証拠。
空になったガソリンタンクが、再び補給のために戻ってくるようなイメージです。
3.「ボーア効果の秘密」pHと二酸化炭素
「酸素を放す仕組み」二酸化炭素とpH低下の役割

運動や頭を一生懸命使うと、その場所の細胞たちはエネルギーを作るために酸素を使います。
この活動のゴミとして、二酸化炭素(CO2)がたくさん作られます。
作られたCO2は血液に溶け込み、赤血球の中で水(H2O)と反応して「炭酸」となります。
炭酸はすぐに「水素イオン(H+)」と「重炭酸イオン(HCO3-)」に分かれます。
水素イオン(H+)が増えることが血液のpHを下げる、つまり血液が酸性となります。
pHが低下するとヘモグロビンの形も少し変化します。
形の変化によりヘモグロビンが酸素とくっつく力(親和性)が弱まり「酸素を離したがっている」状態となります。
その結果、ヘモグロビンはくっついていた酸素を必要としている組織の細胞へと、効率よく「はい、どうぞ!」と放出するわけです。
これが、酸素解離曲線が「右にずれる」(右方移動)として観察される現象です。
この仕組みは、身体が活発に動いてCO2という「代謝のゴミ」が増えると、それが直接的な合図となりその場所への酸素供給を増やす。
という効率的に自動調整できる身体の機能の一例です。
これは酸素が一番必要とされている場所に優先的に届けられる仕組みです。
「肺で酸素とくっつく仕組み」二酸化炭素排出とpH上昇の役割

酸素を身体の組織に届けた血液は二酸化炭素(CO2)をたくさん含んだ状態で肺に戻ってきます。
肺では呼吸により血液中の二酸化炭素が効率よく身体の外へ排出されます。
二酸化炭素の量が減ると先ほどの化学反応が逆方向に進みます。
つまり、血液中の水素イオン(H+)が減りpHが上がりアルカリ性となります。
pHの上昇が、ヘモグロビンの形をまた変えて酸素とくっつく力(親和性)を強くします。
その結果、肺の空気から多くの酸素を効率よく取り込みヘモグロビンとくっついて、再び全身の組織へ酸素を運ぶ準備を整えます。
これは、酸素解離曲線が「左にずれる」(左方移動)として観察されます。
ボーア効果がすごいのは、この「元に戻る力」があるから。
組織で酸素を放したヘモグロビンが、肺でまた効率よく酸素を「充電」する事で酸素運搬システムがずっと働き続けることが出来ます。
4.生活とボーア効果のつながり
運動中に酸素が効率よく届き「もうひと頑張り」

激しい運動をすると、筋肉の細胞はたくさんのエネルギーが必要になります。
それに伴って酸素消費が増加した結果、ゴミとしての二酸化炭素も増加します。
その結果、血液は乳酸などの代謝物でpHが下がり酸性へと傾きます。
これらの変化はすべて、ボーア効果を「もっと頑張れ!」と応援する方向に働きます。
酸素解離曲線を右にずらして、ヘモグロビンが酸素をより放しやすい状態。
これにより、酸素を一番必要な運動中の筋肉に素早く酸素が届きます。
筋肉が疲れにくく最高のパフォーマンスを維持するのに役立ちます。
「もうひと頑張り!」と踏ん張れるのは、このボーア効果のおかげかも…。
二酸化炭素を運び、体のpHバランスを保つ役割:体調を崩さないために
ボーア効果は酸素を運ぶだけではありません。
呼吸で吐き出す「二酸化炭素」を運ぶことにも深く関わっています。
身体の組織で作られた二酸化炭素は、赤血球の中で重炭酸イオンに変わり血液の中を運ばれます。
重炭酸イオンは、血液のpHを安定させる「緩衝作用」(pHの変化を穏やかにする働き)があります。
ヘモグロビンは酸素を放した後、水素イオン(H+)や二酸化炭素とくっつきやすくなります。
これにより、組織で作られた二酸化炭素を効率よく回収し、肺まで運ぶことができるんです。
肺で酸素とくっつくと、今度は二酸化炭素や水素イオン(H+)を放しやすくなり効率よく体外に出すのを助けます。
このように、ボーア効果は酸素と二酸化炭素の運搬を効率よくし、体液のpHを適切な範囲に保つのに重要です。
もし体の中に一定量の二酸化炭素が無ければ、ヘモグロビンはくっついた酸素を効率よく放してくれません。
ボーア効果は体調を崩さずに毎日を過ごせるよう、身体の内部で絶えず行われる大切なバランス調整の仕組みです。
5. ボーア効果のまとめ
ボーア効果は毎日を快適に過ごすために、身体がどれほど緻密に働いているかを示す素晴らしい例です。
運動中の「もうひと頑張り」から、体調を整えるpHバランスの維持まで生活の様々な場面で活躍しています。
ヘモグロビンというたった一つの分子が、pH、二酸化炭素の量、体温等のたくさんの環境要因と協力し合い、その形を器用に変えることで、酸素とくっつく力をダイナミックに調整しています。
ボーア効果は文章では理解しにくい内容だと思います。
今回の内容が難しく感じた方はYoutube等のボーア効果を解説している動画を見て下さい。
わかりやすい解説動画がたくさんありますよ。
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